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それから数日後、王妃は鏡に向かってほぼ確信した様子で訊ねました。
「この世で一番美しいのは誰?」
ところが、鏡は顔色ひとつ変えずにこう言い切ったのです。
「この世で一番美しいのは白雪姫です」
「いい加減になさい!? 死人をカウントするだなんて!」
王妃は例のごとく怒り狂い、拳を振り上げて鏡を叩き割ろうとしました。しかし、そこであることに気がつきました。
「――鏡は嘘をつかない。ということは、もしかして……白雪がまだ生きているということ?」
王妃は問いました。
「はい。生きております。彼女は今、森の小人の家に住んでおります」
鏡は相変わらず機械的に答えます。
「小人の家だと? では、あの暗殺者が持ってきた心臓は何だというのだ!」
「はい。それは豚の心臓でございます……フフッ」
「豚の心臓だと!? あの糞野郎、私を騙すとは!」
王妃は茹であがったタコのように真っ赤になって怒りました。白雪を殺し損ねた暗殺者を生かしてはおくまいと思い、彼を騙してもう一度呼び出そうとしましたが、不思議なことに、彼は不慮の事故で死んだことになっていました。
怪しく思った王妃は、鏡にあの男は本当に死んだのかと訊ねました。すると、鏡は確かに死んだと言い切りました。
「何てことだ。では、私はこの怒りをどこにぶつければよい!」
王妃は眉間に深い皺を寄せて考えました。
「そうだ。もう私がやろう。初めから他人なんぞに任せているからいけない。たしか、白雪は森の小人の家にいると言ったな」
王妃はついに自分で白雪を抹殺することに決めました。それから秘密の地下室へ行き、どういう発想なのか、毒リンゴを作りを始めたのです。
「白雪め、馬鹿で純粋なお前は疑いもしないだろう。継母であり王妃であるこの私が、毒リンゴを持ってお前の所へやって来るだなんて、想像すらしていないだろう! 大人の邪悪さを思い知るがいい」
王妃は出来上がった毒リンゴをかごに入れ、知り合いの魔女の家に行きました。魔女は、誰でも色々な姿に変えられる変身魔法のスペシャリストでした。
王妃は魔女に、自分を一時的に老婆にしてくれるように頼み込みました。
「いいかい、一時的にだからね」
王妃は魔女に念を押しました。
「またあんたかい。今度はいったい何を企んでるのか知らないけど、この魔法は夜の12時まで解けないようにするからね」
魔女はそう言って王妃に魔法をかけ、しわくちゃの老婆にしてしまいました。
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