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暗殺失敗
王妃は物売りの老婆に化け、作りたての毒リンゴが入ったかごを持って白雪のいる小人の家に向かいました。
老婆になったせいか、彼女の身体はいつもの数倍疲れやすく、一歩一歩が重く感じられました。少し歩いては休憩の繰り返しです。朝早く家を出たはずなのに、小人の家にたどり着く頃には昼下がりになっていました。
ちょうど小人たちは家を留守にしており、白雪は一人で呑気にパイを作っていました。開け放たれたキッチンの窓からは、パイ生地の焼ける香ばしい匂いが風にのって香ってきます。
王妃は道に迷った哀れな老婆を演じることにしました。
「そこのあんた。どうか助けておくれ……!」
王妃は窓に近づきました。
「あら、お婆さんどうしたの?」
「あぁ?」
「お婆さん」というフレーズに王妃は思わず己の姿を忘れて間抜けな声を出してしまいました。しかし、すぐに我にかえりました。
「……た、助けておくれ。道に迷って、歩き疲れて死にそうなんだよぉ」
歩き疲れて死にそうになっているのは本当でした。
「まあ、それは大変でしたね。待って、今お水を持ってきますから!」
白雪はなんの疑いも持つことなく老婆に扮した王妃を家の中に引き入れると、冷たい水を差し出しました。
「ありがとう。あたしゃあ行く宛すらない老婆なのに、なんて優しいんだろうねえ。ほれ、助けてくれたお礼に、このリンゴをあげよう。お代はいらないよ」
王妃は助けてくれたお礼にと、かごの中から例の毒リンゴを取りだし、白雪に差し出しました。
しかし白雪はリンゴを受け取ったかと思うと、ふいに渋い顔をして押し黙りました。
――まさか、気づかれたか……?!
王妃の額にじわじわと汗が滲み出ました。
白雪はそのまましばらく押し黙っていましたが、ふと何かひらめいたようにこう言いました。
「良かったらご一緒にお食べになりません?」
その無邪気な笑顔は、どこか威圧感のある、意味深な笑顔でした。
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