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「い、いや。あたしゃあいいんだよ。あんたがひとりでお食べなさいな!」
「いえいえ! こんなに美味しそうなリンゴをタダでくださるんですから。それに、私は当然のことをしたまでですよ」
「さ、先を急ぐんでねぇ!」
「さっき『行く宛がない』って言ったじゃありませんか」
王妃は「しまった」と思いました。どうやら設定を作り込みすぎたようです。やはりあやふやなことはあやふやなままにしておくべきなのでしょう。
「それとも、何か、都合の悪いことでも?」
白雪のいやに整った顔が目の前にありました。口元は笑っていましたが、目の中に光はありませんでした。
「つ、つつ都合の悪いことなんて、ありゃしないよ」
王妃は吃りながら答えました。怪しまれないように何とか笑顔を作ろうとしましたが、うまくいきません。代わりに両膝が笑い出しました。
「そう。では、そこで、待っていてくださいね?」
白雪は笑顔でそう言うと、王妃の目の前でシャリシャリとリンゴの皮を剥きはじめました。
王妃は心臓をバクバクさせながら、どうやってこの事態から退こうか考えていました。
隙をみて逃げる?
何とかしてリンゴを先に食べてもらう?
それとも、殺される前に今ここで殺してしまう?
王妃はちらと白雪の方に目をやりました。しかし、磨ぎたての包丁が、窓から差し込む日の光に照らされてギラギラしているのを見ると、一気に血の気が引きました。
一方、白雪はそんな王妃を尻目に、力強くリンゴを真っ二つに切りました。王妃は、次に真っ二つにされるのは自分かもしれないと思い、全身鳥肌だらけになりました。
リンゴを剥き終わった白雪は可愛らしいお皿に綺麗にリンゴを盛り付けると、王妃の目の前に差し出しました。そして素敵な笑みを浮かべて言ったのです。
「お婆さんからどうぞ?」
王妃にとってその言葉は、まるで死刑宣告のようでした。
――まずい。殺られる……!
王妃は右手を中途半端に伸ばしたままフリーズしました。
食べる?
食べない?
本当の事を言う?
それとも殺す? でもどうやって?
王妃が石像のように固まって自問していると、白雪は肩を震わせてクスクスと笑いだしました。
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