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「ふっ、ふふっ……食えるわけ、食えるわけないよなぁ!」
突然白雪の口調が豹変したので、王妃はぎょっとして白雪の方を見ました。
「こっちは何もかもお見通しなんだよ、オウヒサマ。あんたが姫様を殺そうと企んでたことも、毒リンゴを作って魔女の家に行ったことも、何もかも全部な!」
――姫様を?
王妃は目の前にいる白雪の言葉に違和感を抱きました。
「お、おまえ、いったい何者だい?」
王妃が問うと、白雪はにやりと不敵な笑みを浮かべました。それはまるで悪魔のような微笑みでした。
「白雪姫でも何でもない。ただの瓜二つの影武者だよ。それにしても、今までよく気が付かなかったなババア。本物の白雪姫はとっくに隣国へ逃げたぞ。そればかりか、あんたは毎日王国のスパイたちに監視されていたんだよ」
「何?! スパイだと? デタラメを言うな! それなら真実の鏡が黙っているはずがない! あの鏡は本当の事しか話さないのだから」
王妃はしわくちゃの手で毒リンゴを掴み取ると、偽白雪目掛けて思い切り投げつけました。しかし偽白雪は飛んできたリンゴを真顔で床に叩き落とし、何事もなかったかのように話を続けました。
「ああ、あのやたら喋る鏡か。あの鏡なら、随分と前に買収したよ。嘘をつくように躾るのが大変だった」
「ばい……しゅう……だと?」
王妃は何がなんだか意味がわからなくなり、今にも気絶してしまいそうでした。
一方偽白雪はふと何かを思い出したような顔をして、オーブンのほうに駆け寄りました。
「あー、いけない、いけない。パイを焼いてたんだった。畜生、なんでパイなんか焼かなきゃならないんだ?」
オーブンからは少し焦げたような匂いがしました。
「ちょっと焦げたけど、まあいいか。食うのは小人だし」
偽白雪はそう言って取り出したパイをテーブルの上に置きました。そしてさっき剥いた毒リンゴの方を睨み、小馬鹿にしたように鼻で笑いました。
「見てみろ。高級ラ・フランスのパイだ。あんたも毒リンゴじゃなくて毒ラ・フランスにするべきだったね。あたしはリンゴなんか嫌いだよ。固いやつと、ぞふぞふしたやつなんかは特にね」
偽白雪はもう一度ちらと毒リンゴの方を見ました。
「蜜入りでもないとか……やっぱ無理だわ」
王妃は絶望したままぼんやりと椅子に座っていました。そして、裏庭から適当に拾ってきたリンゴで毒リンゴを作った事を少しだけ恥ずかしく思いました。
偽白雪はそんな王妃を無視して、包丁でパイを7つに切り分け始めました。もちろん包丁はさっき毒リンゴを剥いたものだったので、丁寧に洗ってから使いました。
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