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王国のスパイ
偽白雪は城へ戻ると、王妃を特務機関の人間に引き渡しました。
「さて、これで任務完了だ。思ったより簡単だな。危うくマトに死なれるとこだったが……」
偽白雪は大きくため息をつき、関節をボキボキと鳴らしました。
「しかし本当の任務はこれからだ」
城の外に出た偽白雪は軽く深呼吸をして、歩き出しました。冷たい冬の空気が、ツンと鼻を刺しました。
薄暗い森の中を歩いていくと、いかにも日当たりの悪そうな場所に、古びたみすぼらしい小屋がありました。そこは、例の魔女の家でした。王妃をリンゴ売りの老婆に化けさせた、あの魔女です。
偽白雪は魔女の家のドアをガンガン叩きました。腐りかけのドアから、ポロポロと木屑が落ちました。魔女は耳が遠いので、こうでもしなければ出てきてくれないのです。
「おい、魔女! 俺だ! ドア空けろ!」
偽白雪はガンガンドアを叩きながら叫びました。すると、ガチャリと鍵が空き、中から魔女が姿を現しました。彼女は少し怯えている様子でした。
「……さ、作戦は、うまくいきましたでしょうかねぇ?」
「バッチリだ。お前は王妃に寿命を50年奪う魔法をかけたから、王妃は死ぬまでずっと老婆のままだ。もう彼女が王冠を頭に乗せる日は来ない。待ってりゃ嫌でもじきに死ぬ」
魔女は王妃を老婆に変えるとき、12時になったら解ける魔法だと言いましたが、あれは真っ赤な嘘でした。本当は早く歳をとらせる恐ろしい呪いだったのです。残酷なことに、もう王妃の寿命はほとんど残っていません。
「では、王妃の悪事は王国民に公表を?」
「さすがにそれは無理だ。確かに作戦はうまくいったが、この事実は公にしないことになった。王国の信用が落ちるからな」
「隠蔽するというのですか。それでは、一体王妃の座は誰が引き継ぐと言うのです? 皆にはなんと説明なさるのです?」
魔女の言葉に、偽白雪はにんまりと笑いました。しかしその顔はどこか切な気で、とても深い意味を含んでいるように見えました。
「至極単純な話だ。新しい王妃を用意すれば良い。偽物の白雪姫を用意した時と、全く同じように」
「ま、まさか、あなたが……?」
偽白雪はにやりと笑い、首を縦に振りました。
「その通り。同じ手を二度も使うのは感心できないが……今日はそのために来た。時間がないから、早くしてくれ」
「しかし、そうしたらあなたは元々男性でありながら、王妃としてその生涯を送ることに……!」
「単なる長期任務だと思えばいい。それが過去に罪をおかした人間の贖罪というわけだ。俺は元々死刑になる予定だった。人を大勢騙したし、直接手を掛けて殺しもした。そこを条件付きで王国に拾ってもらったんだ。生きて贅沢させて貰えるだけ、ラッキーな話だろう。……まあ、あのババアの顔面で生きるんだ。鏡は極力見ないように努めるさ。でないとアイデンティティーが壊れるからな」
偽白雪はそう言って笑いました。
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