復讐に身を捧げた私と、そんな私を慕う後輩の話。

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 二十二歳。  いい風だ、と思いながら、私は正面の男を見つめた。  燃える洋館は脆く、ひっきりなしに重々しい破壊音が響き渡る。  転がった幾つかの死体。  立ち尽くす、私と、正面にいる男性士官。  ギラギラした眼差しを私に向け、刀を握るその姿は、まさしく夜叉を彷彿とさせる。口から血を流しながら、彼――犬丸辰巳は五泉組の黒の隊服を身に着け、私に挑んでいた。  血と死臭と煙の臭い。燃えゆき、灰燼に帰す洋館。  「決着、付けよーじゃねーっすか」  好戦的に笑う犬丸に合わせるように、私も口元を緩ませた。  剣を習い始めたのは、簡単なことだった。  私が十歳の時、両親が殺された。  敬愛する、優しい両親だった。お母さんの作ってくれたお握りはどんなものよりおいしくて、お父さんの語る武勇伝は面白くて。  当たり障りのない日々。第四次世界大戦後で落ちぶれた、貧困街の一角でしかなかった私たち。けれど、それでよかった。それがよかったのだ。この平和が一生続くと思っていたし、そうであるように願っていた。  けれど。  強盗に襲われた両親は、私を逃がすために殺された。  燃える、小さな私たちの家。貧しかったけれど、楽しかった日々の象徴が壊された。  暴漢の素性は知れている。  政府の高官の息子だ。  奴らは金の力で事件を無かったことにしてしまった。
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