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筋肉痛や、手の豆が潰れ、涙を流す日だってあった。あの地獄が脳内でリフレインし、嘔吐することも珍しくなかった。けれど、奴の苦悶にゆがんだ顔を想像し、激痛に震える体に鞭打って剣を振るった。誕生日も休みの日も、何かとかこつけて修練を積んでいた。それこそ、白い道着が汗でぐしょ濡れになるまで。
どうしてここまで実力を養うのか。
すべては五泉組に入隊し、頂点を取る足掛かりとするため。
五泉組は政府直轄の警察機構である。大きな組織であり、その頂点となればこの国で膨大な影響力を誇ることができる。
そして、五泉組は一年に一回、国内の道場をめぐり、めぼしい者を登用する制度があるのだ。
お眼鏡にかなえば、私は晴れて五泉組に入隊し、出世の階段のスタート地点につくことができる。そうなれば、おのずと奴と接近する機会が増えるだろうから。
だから私は師範以外の人間と口を利くことなく、ひたすら自分の剣を磨き続けた。
磨いて磨いて磨いて磨いて磨いて磨いて磨いて磨いて磨いて。
道場内の恋愛とかもかなりあったし、稽古が終わった後には皆で食事に行くことだって多々あった。
けれど私はそれらに無視を決め込み、剣の腕を磨き続けた。
仇を取ることが、私の存在意義。
それ以外はすべて不要。
「二宮先輩! 一本お願いできますか!」
道場の新参だった犬丸と出会ったのは、そんな日だった。
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