面倒な人

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「いらっしゃいませ」 「…この髪飾り、可愛いですね」 「ありがとうございます」 「どこで手に入れたんですか」 「いえ、これ、私の手作りなんです」 「それはすごい」 「出来は気に入っているんですが買ってくださる方がいらっしゃらず、困ってるんです」 「困るんですか」 「ここにいる子は私の子なのですが見ての通り男の子ですし、ご近所さんにも女の子がいないのでここで売り切ってしまいたいんです」 「そうなんですか、では私にください」 「はい、ありがとうございます」 「では失礼」 「あの」 「はい」 「代金を」 「は」 「代金を支払ってください」 「…だいきん」 「売り物なので」 「…うりもの」 「なぜそんな顔をしているのですか」 「何を言っているのか分からないので」 「ですから、それを買うための代金を、私に支払ってください」 「なぜですか」 「なぜって」 「あなたが勝手に誰かにこれをあげたいと思っただけでしょう」 「っ、何を言うんですか」 「それとも、誰かに必要とされたから作ったんですか」 「いいえ」 「でしょうね」 「あなたはその髪飾りが必要ではないのですか」 「はい、あって困ることはないでしょうが必要ではありませんね」 「ではあなたにそれを売りたくありません、返してください」 「なぜ」 「お金も払えないのなら売りたくないです」 「あなたは困っていると言った」 「そうですけど」 「あなたはその髪飾りを引き取ってほしいが誰にも引き取られなくて困っていた、そこに私が来た」 「ええ」 「あなたは『ありがとうございます』とも言った」 「それはお買い上げいただく前提があったからで」 「ここはバザール。あなたは物を一方的に与えようとしている。であれば、あなたはそれを引き取った私に無条件で感謝すべきです」 「それを作るのにも材料費というものがかかっていましてですね」 「知りませんよそんなもの」 「何を…」 「恐らくあなたは誰かの喜ぶ顔を見たいという穏やかな心でこの商品を作ったのでしょう、違いますか」 「そうです」 「ならば提案です、ボランティアとして見返りを求めることなく相手にこれを渡せば相手はもっと喜びますよ、これであなたの望み通りですね」 「そんな無茶苦茶な」 「…この時代では驚くほど『交換』の精神が根付いているのですね、私の時代ではそれこそが悪徳とされているのに」 「…は」 「この時代に来て唯一後悔したのがこれですよ、誰も彼も交換交換と、うんざりしてしまう」 「ちょっと」 「いやまぁ知ってはいましたがね、まさかここまでとは」 「時代とは、あなたは一体何を言っているのですか」 「気にしないでください」 「でも」 「そこにいらっしゃるあなたのお子さんも帰りたがっていますし終了時刻も迫っています、これが残ってしまえば困るのはあなたではないのですか」 「それは」 「私はこれをいただいてもよろしいですか」 「ぁ…」 「どうされます」 「…差し上げます」 「そうですか、では」 「……」 「ぜんぶうれたねおかあさん、かえろ」 「…うん」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ 「ふぅ」 疲れた〜。やっぱり相手を言い負かすのは体力使うなぁ。私がを持ってなかったからこの手段を使うしかなかったってだけなんだけど。あの人が私の予想した通り私より頭が悪くて本当に助かった。…それにしても、 「…」チャリン この髪飾りめちゃくちゃ可愛い〜!帰り道にこんなの見つけたら欲しくなるに決まってるじゃん、あの子にすっごく似合うだろうなぁ!帰ったら、「お母さんからのプレゼントだよ」って渡すんだ!絶対喜んでくれるよね! 早くに帰ろう!
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