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春とは麗らかなものである。俺の横に寝転がり、どこまでも続く青空を仰ぐ親友・鍋島基樹(通称・もっちゃん)もそう思っている事だろう。知らんけど。
「......桜咲いたなァ」
「ン?咲いたなぁ」
「......ん」
もっちゃんは毎年、春になると"ボーッ"としてしまう。いつも「オラオラかかってこいやぁ」と周りに喧嘩を売っては負けて帰ってくるもっちゃんが、今にも寝そうな顔をしている。
「...なぁ、もっちゃん」
「......なんだ?」
ボーッとした声で、もっちゃんが返事をする。俺はほぼ空になった煙草の箱をカラカラと鳴らし、可愛い子ぶって首を傾げた。
「煙草吸っていい?」
「ダメだ」
「......だろうねぇ」
"煙草"という単語に即座に反応したもっちゃんが返した言葉に、俺は苦笑いをした。
風に乗って、チャイムの音が聞こえてきた。俺は腕時計を見て「あぁ、もうそんな時間かぁ」と思い、隣を見る。
「.........ぐぉっ、ぅえ~...」
横向きに寝ているもっちゃんが、突然吐き気を催したように呻いた。
「うっ......ぅえ~......っ、」
呻きながら背中を丸めるもっちゃん。まさか本当に気持ち悪いのか?俺は不安になり、もっちゃんの肩を掴んで揺すった。
「、もっちゃん。大丈夫か?」
「うっ......ぅ?」
もっちゃんがゆっくり振り向いた。緑の上に広がるもっちゃんの金髪が、キラキラと輝く。
「......大丈夫か?もっちゃん。吐きそう?」
「あ?......あぁ、ビビった。今、寿司屋行っててよぉ...」
もっちゃんが仰向けになり、腕で目を隠して「ぶはぁ~」と大きく息を吐いた。どうやら夢の話をしてくれるらしい。
「お前がウニの特盛丼なんて頼むからよぉ......」
「......それで?」
「隣でバクバク食い始めて......あ~…気持ちわりぃ......ぐぇっ、」
夢の内容を思い出しただけで吐き気がするらしく、もっちゃんは再び小さく呻いた。
「......ウニ、かぁ」
「あ?」
キラキラと輝くもっちゃんの金髪を見て、それから青空を仰いだ。
「......また2人で回転寿司行こうぜ。もっちゃん」
「......てめぇの奢りなら行くわ」
「それは嫌だ」
ズバッと切り捨てると、また学校のチャイムが鳴った。
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