もつ煮コンビのキス事情

1/2
前へ
/32ページ
次へ

もつ煮コンビのキス事情

 "はぢめてのキスはレモンの味"という言葉は、一体誰が考えたのだろう。 「.........なぁ」 「?どしたの、お兄ちゃん」 「キスってさぁ、ほんとにレモンの味すんの?」 「............するわけないじゃん」 真剣に質問した俺を、妹が「馬鹿なの?」と睨んだ。  「......て事があってよ。ひどい妹だよな」 「だぁぁぁあっはははは!何それギャグ!?ギャグなの!?」 屋上であんパンを貪りながら俺を笑い飛ばすのは、鍋島基樹(なべしまもとき)(通称・もっちゃん)。俺の相棒......というか親友である。  「......そんな笑う事か?」 俺は吸っていた煙草を口から離し、屋上の床に押し付ける。もっちゃんは笑って乱れた金髪をかき上げて、それから涙を拭った。 「笑うだろ!ハンパねぇなほんと!!」 「......悪かったな」 ぎゃはぎゃは笑うもっちゃんを見ていると、段々腹が立ってきた。人の真剣な悩みと疑問を笑うなんて......。  消したばかりの煙草をもう1本吸おうかと、ポケットに手を伸ばした......時だった。 「尾鍋ぇえ!鍋島ぁあ!!どぉこだぁあ!?」  「......なんだぁ?」 「ごぇっ!!っあ!つ、つまった!あんパンがつまった!!!ぐぉえっっっ!!!!」 俺たちを呼び出す正体不明の大声にのんびり返事をした俺の横で、もっちゃんがあんパンに殺されかけていた。  屋上から下りて昇降口に向かうと、数人の教師がいた。 「......何してンすか?」 「おっ、尾鍋!鍋島!!お前ら、あの子達に何をしたんだ!?」 「どの子達ですか......……あぁ、」 教師の肩越しに前を見ると、そこには数日前に喧嘩をした他校の生徒がいた。それも数人。「ボコボコにしたのは1人だけだったよなぁ」と思いながら、教師を押し退けて前へ出る。 「おっ!おい尾鍋!」  教師が制止しようと伸ばした手を無視して、相手に歩み寄る。相手側は俺たちを見るなり、親の仇でも見つけたかのような険しい顔をした。 「......こないだは世話になったなぁ」 「うわ出た!ハンパなくテンプレートな台詞!!今時の不良漫画でも言わんげな、そんな事」 「......もっちゃん喧嘩弱いんだからそんな煽るなって」 「はぁ!?弱くねぇし!!」 本人はこう言うが、実際もっちゃんは喧嘩が弱い。目の前の奴等に絡まれた時だって、もっちゃんは真っ先に殴られて地面に転がっていたし。  「弱いんだよ、もっちゃんは。いい加減自覚を持ちなよ。身の程を知らないと死んじゃうぞ」 「弱くねぇっつーの!!いい加減にしろ!」 ぎゃあぎゃあと、もっちゃんが叫ぶ。俺は怒鳴られてむず痒くなった耳を指でほじり「はぁ......」とため息をつく。 「弱い犬はよく吠える......」 「ンだとぉぉ!?てめぇもっぺん言ってみろゴラァア!!!」 「俺らを無視して喧嘩すんなや!!!」 ヒートアップしたもっちゃんが俺の胸ぐらを掴むと、すっかり忘れられていた奴等が叫んだ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加