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もつ煮コンビのピアス事情
リビングに入ってくるなり、姉貴が「もう私の推しは!推しではない!!」と叫び、ソファで寝る俺の顔に雑誌を投げ付けてきた。
「いってぇな!何すんだこのばか姉貴!」
「うっせぇな!!私は傷心してんだよ!」
「ハンパなく意味わかんねぇ!」
姉貴が泣きながら俺に叫ぶ。どうやら、姉貴の好きなアイドルが「熱愛報道」を出したらしい。
「分かれよ!だからお前彼女いねーんだよ!」
「関係ねぇだろ!?」
「あ~~!も~~!推しに憧れてピアスまで開けたのにぃ~………」
「知るか!!!」
床にへたり込んだ姉貴が、ビービーと泣き始めた。こんな喧しい部屋で昼寝なんぞ出来るわけがない。俺はリビングのドアを開けて、自分の部屋と向かった。
「ったく......とんだ迷惑だぜ......」
部屋のドアを閉め、俺は壁に向かって舌打ちをした。そもそも芸能人に恋をする意味が分からない。住む世界が全く異なる人間に恋をしてどうするんだ。
百歩譲って、恋をするのは構わないにしても「叶わなかったから」といって俺に八つ当たりをしないで欲しい。
「......ったく。.........あ」
やべぇ、と俺は呟いた。姉貴が投げつけてきた雑誌を持って来てしまったのだ。
「.........どれどれ?」
「その"推し"とやらの顔を拝んでやろう」とページをめくると、妙に"クセ"がついているページを見つけた。
「.........へぇ~、こいつがねぇ」
クセがついているページをめくり、その"推し"とやらを見て、俺は鼻をほじった。どこが良いのか少しも分からない。顔は女みたいだし、体は華奢だし。こんな"男らしさ"の欠片もない男が良いのか。
「......姉貴の趣味はよく分かんねぇなぁ。.........お?」
なんとなく顔を眺めていたら、妙に派手な耳に目がいった。ジャラジャラとピアスがついている耳を見て、俺は「ほぁ~」とため息をつく。
「なかなかハンパねぇ事するなコイツ.........」
女みたいな顔に、まるでジュエリーボックスのようにキラキラした耳......俺はこいつを見直した。なかなか度胸があるじゃねぇか。
「......ピアス、かぁ」
何もついていない耳たぶを撫でて、俺は1人で「ふむふむ」と頷いた。
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