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緑茶を吹き出して噎せるにこちんを見て、俺は恥ずかしくなった。高校生にもなって「おいピアス開けようぜ」なんて、ダサいにも程があるように思ったからだ。
「な、なんだよ!笑うなよ!!!」
「げほっ!ぅえっっ!だっ、だって!真剣な顔して、なっ、なにを言うかと思ったら......ぁがぺっ!!!」
「癖の強い噎せ方するなよ......」
なんだ「ぁがぺっ!!!」って。にこちんは2、3回胸をドンドンと叩くと、落ち着いたのか大きく息を吐いた。
「あ"~、ビックリした......。でも、どうしたん?急に。もっちゃん、ピアスなんて興味なかったじゃねぇか」
「えっ?!あっ、いや......その......」
まさか「姉貴の好きなアイドルがピアスばちばちに開いててかっけぇから」なんて言えるわけがない。「シスコンだ」と勘違いされたら嫌だからだ。
「ふ、深い意味はない、けどよぉ........."かっけぇから開けてぇなぁ~"って......思って......」
「......中坊かよ」
「うっ、うるせぇっ!!」
モジモジする俺を見て、にこちんがウーパールーパーのような顔をした。なんだその変な顔は。面白いからやめろ。
「まぁでも、俺も"かっけぇ"とは思うし......いいんじゃね?開けようぜ」
「お、おぅ!ありがとう!!流石にこちんだぜ!!!!」
「で、何で開けんだ?」
「え??」
「え?だって穴開けるんだろ?道具いるだろ。穴開ける道具」
「............アイスピック、とか?」
「殺す気か?」
「仕方ねぇなぁ」と呟いたにこちんが、スマホで検索を始めた。
そして検索した結果、どうやら"ピアッサー"なるものが必要らしい。"ニードル"というものもあるが、ピアッサーの方が簡単に手に入るらしい。
「へぇ~......ピアッサーだってよ。もっちゃん」
「へぇ~......それで穴開ければいいんか?」
「らしい。あんま痛くねぇってよ」
「へぇ~.........」
痛い痛くないは正直どうでもいい。痛いのは喧嘩で慣れているし、昨日もタンスの角に足の指をぶつけて悶えたばかりだ。耳たぶに小さい穴が開くくらい、どうって事はない。
「ふぅ~ん......あ、でもこれさぁ。ウメキヨで見た事あるわ」
「は!?マジかよ!」
朗報に俺の目が輝く。もっちゃんは煙草に火を付け「うん」と頷いた。ウメキヨなら、ここから大して遠くはない。
「よし!じゃあ行こうぜにこちん!」
「は?もっちゃんが行って来いよ」
「はぁ!?ハンパなく薄情だな!一緒に開けんだから一緒に行こうぜ!?」
「.........仕方ねぇなぁ」
よっこいせ、と立ち上がったにこちんが、吸いかけの煙草を灰皿で押し消した。
人通りの少ない静かな道を歩き、俺たちはウメキヨに辿り着いた。店の外には『新商品発売!』というポップがついた化粧品が並び、女子たちが群がっている。
「......で、どこにあんだ?」
「確か奥の方。ついでにティッシュ買ってこうかなぁ」
「......主婦かよ」
騒ぐ女子たちをスルーし、俺たちはピアッサーを探しに店の奥へ向かった。
「おぉ、あったあった。これよこれ」
辿り着いたのは、ヘアアクセサリーのコーナーだった。ヘアアクセサリーとピアスの関係はよく分からんが、見つけたのでヨシとする。ヘアピンやヘアゴムと一緒に並べられているピアッサーを眺め、俺は「ふぅん」と声を出した。
「こんなんで開くんか?」
「開くらしいけどなぁ......買う?」
「たりめーだろ。ここまで来たんだし」
「もちろん奢りだよな?」
「......まぁ、そうだな」
「でもティッシュ代は出さんぞ」と伝え、俺は安っぽいピアッサーを2つ手に取った。
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