もつ煮コンビのピアス事情

4/4
前へ
/32ページ
次へ
 「さぁて......何をどうすりゃいいんだ?」 にこちんの部屋に帰り、さっそくピアッサーを開ける。にこちんは「買ったティッシュを物置へ運ぶから」と、まだ外にいる。 「えーっと?」 小さく折り畳まれた説明書を開き内容を読む。グダグダと書かれているが、つまりは「清潔な耳に開けろ」という事らしい。  「......どうした?チキったか?」 「はぁ!?ちげぇし!説明書読んでたんだし!」 部屋に入ってきたにこちんが、ニヤニヤしながらそんな事を言いやがった。別にチキってなんていない。これぐらいでチキったら、男が廃るというものだ。 「なんなら冷やすの持ってきてやろうか?」 「いらねぇっつーの!!」 にこちんが吠える俺の横に座り、俺が開封したピアッサーを手に取った。  「チキってねぇならとっとと開けようぜ?」 「うっ、うるせぇっ!言われなくても開けるっつーの!」 テーブルに説明書を叩きつけ、髪を耳にかける。にこちんは俺の方を向いて胡座をかき、誤爆しない程度の力で、ピアッサーをカチャカチャと動かしている。 「右と左どっちがいい?」 「......どっちでもいい」 「はいよ。じゃ、動くなよ~」  緊張で体温が上がった耳に、にこちんの冷たい手が触れる。 「つめたっ!」 「心が優しいから仕方ねぇな」 「......はぁ?」 そんなバカな会話をしながら俺の耳たぶの柔らかさを確かめた後、にこちんが軽くピアッサーをあてがった。 「いくぞ~......」 そう言ってにこちんが手に力を入れると、耳元で"ギギギ"とバネが軋む音がした。 「い.........っ」 バチンッ!と物凄く大きな音がして、耳がじんわりと熱くなった。僅かに痛みを感じ「あぁ、開いたのか」と実感する。 「...おぉ、開いた開いた。どう?いてぇ?」 「......ちょっといてぇ」 にこちんが恐る恐る耳に触れると、にこちんの爪とピアスが当たる"カチャ"という音が聞こえた。 「......ん。でもいいんじゃね?綺麗に開いたじゃん」 「おぉ......サンキュ」 綺麗に開けられて嬉しいのか、にこちんが俺の耳を軽く触りながら微笑んだ。  「じゃあ、次俺な」 「......ハンパなく緊張する」 「開ける側は痛くねぇから大丈夫だって」 そう言うとにこちんは俺に耳を見せ「ここな、ここ」と指さした。 「......ここ?」 「ん~、も~ちょい下......ん、そこそこ」 にこちんが「オッケー」と呟く。俺は震える手でピアッサーを握り、にこちんの耳に針を当てる。 「......ズレても文句言うなよ?」 「ズレるの前提かよ......まぁ言うつもりはねぇけどよ」 「とにかく頑張れ」とにこちんが笑う。 「......いくぞ~...」 ピアッサーを握る手に力を入れると、俺の時と同じようにバネが軋む音が聞こえた。 「.........ンっ、」 ガチャン!と大きな音がしたと同時に、にこちんの体が少しだけ震えた。 「......おぉ、」 ピアッサーを握る手を離すと、綺麗に貫通しているのが見え、俺は感動した。 「.......いてぇ?」 「いてぇ......っつーかうるせぇな、ソレ」 へへ、とにこちんが笑う。耳たぶにソッと触れてみると、俺の耳と同じで、じんわりと熱を持っていた。  「......。」 指先で耳たぶを撫でると、ピアスと擦れて"カチャ"と音がした。 「......開いたな」 「そうだな」 「.........良かった」 「語彙力ねぇのかよ」 「変な奴」と笑うにこちんに「うるせぇ」と笑い返すと、まだ熱を持った耳がじんわりと痛くなった。 (親に見つかって怒られたわ) (ドンマイ、もっちゃん)
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加