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#10 お坊ちゃまは杏と恋人以上
冬休みに入り、公平の屋敷では主抜きのおやつタイムが始まっていた。
「今日のパンケーキ美味しいわ」
「梓様、有難う御座います」
仁が微笑みなが梓に答える。
「梓、年末と年始の予定は?」
「お父さんの実家に帰るわ・・・仁さんアイスあったら乗せて欲しいな」
「私も欲しい」
「出来たら僕も、お願いしたいな」
「かしこまりました」
仁はキッチンへ向かい、バニラアイスを持ってくる。
「アイスと一緒に食べると美味しいのよね、すぐ溶けるから急がなきゃ行けないけど・・・」
「どうぞ」
「有難う御座います」
階段を降りながら話しを聞いていた公平は、広間で席に付きながら仁に指示を出した。
「仁、梓は予定が有るみたいだから、沖縄へは4人で行く」
「ん? 沖縄」
「うん、年末年始でね」
「恒例の、企業新年挨拶は?」
梓は不思議そうな顔で公平に尋ねると、代わりに仁が答えた。
「公平様はそれが嫌で、今年は沖縄に逃げると言われてるのです」
「今まで出てたのに急にどうしたの?」
「父さんが出ないと駄目と言うから出てただけ、だから今年は、仁と結衣、聡美と沖縄へ逃げる」
「私達まで、良いのか?」
「嬉しいなぁ、公平君は優しいよね」
「ここに残すのは可哀想」
喜ぶ結衣と聡美を見て、梓は突然と席を立ち上がった。
「ふん、ちょっと待っててね」
「梓、アイス溶けちゃうよ」
「大丈夫、溶けても美味しいからーーーーー」
全速力で消えていく梓・・・。
息を切らし戻ってきた梓は、パンケーキの事など既に忘れていたのだった。
「ハァハァ、公平・・・私も沖縄に行ける事に成ったわ」
「良かったね、仁手配をお願い」
「かしこまりました」
当然と言うように返事を返す仁。
結衣と聡美は唖然としながらパンケーキを食べていた。
「何だか梓君、必死だったね」
「そんな事無いわよ・・・」
「そんなの良いじゃないか、皆で沖縄バカンスを楽しもう」
「そうね結衣」
結衣の言葉にホッと胸を撫で下ろす梓だった。
「仁、沖縄で1泊してから石垣島の別荘行くからね」
「かしこまりました」
「別荘か、凄いなぁ」
「何だかカッコイイね」
「想像してるより小さい物だと思うよ」
結衣や聡美が想像してる別荘より遥かに凄い事は、確かで有る事を後で知る事に成る。
公平は既に沖縄から気持ちは離れている。
「聡美、後でゲームをやろう」
「良いよ、楽しそうなの見つけといたからね」
「有難う、聡美のお陰で色々楽しく遊べる様に成って来たよ」
「それは良かった」
公平にとっての連休は、昼寝にゲーム、自分で好きに使える時間が多く、人生の中で1番有意義な期間かも知れなかった。
翌日の昼過ぎ、1人の少女が公平の屋敷を訪ねてきた。
「おひさしぶりでーす」
「これは杏様、お久しぶりで御座います」
「梓のメールで沖縄行くと聞いたから来ました、寮に居ても殆どが帰省しちゃうし、私も沖縄行きに入れてね」
「かしこまりました、手配致します」
当然の様に沖縄行きを勝手に決める杏に対して、仁は深々とお辞儀をしながら了解をしたのだった。
「私の部屋は使える?」
「もちろんです、どうぞお上がり下さい」
仁と杏は2階へ上がって行った、それを見ていた結衣と聡美は困惑を隠せないでいた。
「誰なのかね?」
「公平君の身内の方とか、じゃないのかな?」
2人は顔を見合わせたが、答えは出せなかったのである。
仁と杏は1つの部屋へ入った。
「懐かしいな、出ていった時のままだ」
「欠かさずに掃除してますので、直ぐにお使い出来ます」
「有難う御座います、所で公平は?」
「公平様は自室にいらっしゃいます」
「それなら、公平に会ってから下に行きますね」
「かしこまりました」
仁は階段を降り、杏は公平の部屋へ向った。
「公平、入るぞ」
杏が公平の部屋へ入ると、公平はベッドの中だった。
「相変わらずだなぁ、仕方ない少し一緒に寝るか」
杏は呟くと上半身は裸になり、下半身は下着1枚でベッドへ入り、公平に抱きついて寝る体制に入ったのだった。
杏が公平のベッドへ入って1時間ほど・・・梓が遊びにやって来た。
「こんにちは~」
「やぁ、梓」
「こんにちは、梓君」
「あれ、公平は?」
広間に入ると公平を探す梓。
「公平は寝てるんじゃないかな?」
「そう・・・」
何時もは仁が運んでくれるコーヒーを、メイドが出してくれた。
「有難う御座います」
「梓、この時期って沖縄は泳げるのか?」
「どうだろう、この時期は行った事無いからなぁ」
「一応、水着持って行こうかな」
「そうだな」
女子会トークの中、仁が広間に入って来た。
「梓様、いらっしゃいませ」
「仁さん、こんにちは」
「先程、杏様をお部屋へ案内した所です」
「え? 杏来てるの?」
「梓様のメールで、沖縄行くと言う知らせで来られた様です」
「しまった・・・それで杏は?」
梓はかなり動揺している。
「公平様のお部屋へ入られました」
「やばい」
珍しくコーヒーカップを雑に置くと、公平の部屋へ向って走り出した。
「どうしたんだ、梓」
「梓君、待ってよ」
結衣と聡美もその後を追う。
「公平開けるわよ」
返事も待たずに扉を開ける梓、大体の予想は出来ているようだ。
「・・・」
「杏!」
「何だよ梓か、ノックぐらいしろよな」
「杏、何してるのよ」
杏の寝惚けた質問を無視する梓。
「見ての通り昼寝だよ、何時も通りのさ・・・」
「うううう、杏起きて」
梓が力ずくで杏を、ベッドから引っ張り出そうとする。
「入ったばかりなのに~」
「良いから起きてよ」
「分かったよ」
起き上がった杏の上半身裸な胸には、公平の手が覆い被さっていた。
「公平はまだ起きなそうだな、下に行ってお茶でもするか、知らない娘達もいる様だしね」
と言いながら、結衣と聡美を観察する杏。
1階のリビングでは、改めて4人に新しいコーヒーが運ばれていた。
「私は中川杏、17歳よろしくね、君達は?」
「私の前が、飯田結衣、隣が河原聡美、公平と私のクラスメイトで、事情が有ってここで暮らしてるわ」
「初めまして、飯田結衣です」
「同じく、河原聡美です」
「やれやれ、公平にも可愛い虫が付き始めたか」
杏は、しょうがないなぁと言う顔をした。
「いや私達は・・・」
「僕達は行く所が無くて、ここでお世話に成ってるんです」
「そう、2人共公平とは、恋人関係に成りたく無いって事で良いのかな?」
「・・・」
「・・・」
「ちょっと結衣、聡美」
「梓、人の恋愛感情は自由だ、それで友情や家族の関係を崩すのは間違っているぞ」
「結衣と聡美もね」
3人は杏の言葉に納得し頷いた。
「丁度、公平が居ないし少し話をしようか」
杏が切り出した。
「3人共、現実の恋愛は完全な理想の人物と出来るとは思って無いよね?」
頷く3人。
「私達がその妥協の幅を1メートルと考えたら、公平は髪の毛1本位なんだよ」
「杏、どういう事?」
「簡単に言えば公平は、あくまでも理想の女性に限りなく近くないと、恋をしないって事さ」
「なるほど」
聡美が納得する。
「現状、梓は恋人以上、私は梓より恋人以上」
「杏待ってよ、そんなの分からないじゃない」
「梓落ち着いて、勘違いしてるぞ、公平の恋人以上と言うのは家族なんだよ」
「その証拠に、この家には私の部屋は有るけど、梓には無いだろ?」
「そうだけど・・・」
「恋人への修正は、梓の方が近いと言う事」
梓が仁を見ると、仁は微笑みながら頷いた。
「私と梓では、梓の方が公平の恋人に近いという事だ」
「複雑なんですね」
結衣が首を傾げる。
「2人はどうなんだい?」
「僕達は、友達以上、恋人未満と言われました」
「それは、そのまま取って良いと思うね、よく友達以上になれたね?」
「ええ、色々有りましたけど・・・」
「公平は、友達と言う所で止まる様な人間関係を作らないんだよ」
「梓もそんなの知らなかった」
梓は杏の観察力に驚きを隠せないで居た。
「公平は友達以下か以上どちらかで、友達と言う線が無いから、上辺だけの付き合いもしないし、大切にすると決めたらトコトン大切にしてくれるのさ」
「2人も経験有るんじゃない? 公平は必ず友達以下から始まるからね」
結衣と聡美は体育館裏での事、このリビングで遺言書を見た時の事を思い出していた。
「後、公平には下心と言うか、やらしい煩悩が無いのさ」
「結衣と聡美は、経験無いだろうから信じられないだろうけど、梓は分かるよね?」
「うん、分かる」
「確かに、ゲームをしてる時に僕の胸が当たるけど、僕が気にしないなら構わないとか言ってたね」
聡美が言うと。
「私も、梓をまねて下着だけでベッドへ入った時は、私の格好より梓じゃない事の方に驚いてたな」
「この前のお風呂で3人抱き合って動けない時も、やらしいとか恥ずかしいとかではなく、動けなくて梓を呼んでたしな」
結衣と聡美が過去を振り返りながら言う。
「結衣も聡美も普段からどんな生活をしてるのよ」
梓が怒る。
「梓、妬かない、妬かない、でも2人共結構進んでるんだね、お姉さんもウカウカしてられないかもな」
「杏!」
「まぁ、まぁ、そんな簡単には公平の心は動かせないから、梓もゆっくりやる事だね、度が過ぎると嫌われるぞ」
杏が梓を脅かした所で、仁がやって来た。
「杏様、沖縄なんですが、宿は取れましたが飛行機が取れなくて・・・」
「そんな」
杏は考え込んだ。
「しょうがないね、ここはジャンケンで決めるしか無いか、梓、結衣、聡美、3人でジャンケンしてよ」
「何でよ、杏の分が足りないんでしょう、私達は行くのが決まってるのよ」
梓が抵抗する。
「梓、私は遠く遥々と公平に会いに来たんだぞ? 公平の居ない正月を、ここで過ごしたって意味ないじゃないか、それとも梓は、お姉ちゃんにそんな酷な事を願うのか?」
「そんな事は無いけど・・・」
「それなら、早く決めちゃってね」
『ジャンケンポン』
「なんで、梓が負けるのよ~」
梓は今にも泣き出しそうだ。
「結衣、聡美、梓が可哀想過ぎると思わない?」
梓は2人にすがる。
「う、うんでも私も沖縄行きたいんだよね」
「僕も、最初で最後かもしれないからさ~」
「そんな~、仁さん、始発便でも最終便でも良いから探し出して!」
「かしこまりました」
「3人共、冷たいわよね」
「梓だって、逆の立場なら譲らないだろう?」
「そりゃそうだけどさ・・・」
それを聞いて結衣と聡美は、心に有った少しの罪悪感から開放されホッとする。
仁が笑顔でやって来た。
「梓様、3時間前の予約が取れましたので、私が先に沖縄へ向い、皆さんをお待ちしております」
「仁さんは、相変わらず梓に甘いよね」
仁は少し恥ずかしそうに、その場を離れたいった、その頼りになる背中へ梓は大きな声でお礼を言ったのだった。
「仁さん、有難う大好き~」
これで全員、年末年始は沖縄へ行ける事に成ったが、梓、結衣、聡美は普段とは違う何かが起きるのでは無いかと、杏を見ながら心に思っていた。
そこへ起きてきた公平に、杏が来た理由で沖縄行きが知らされた。
「杏、飛行機の席取れて良かったね」
今までのやり取りを知らない公平は、素直に杏の沖縄行きを喜んでいた。
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