5人が本棚に入れています
本棚に追加
#2 お坊ちゃまは嫌われ者
公平と梓は教室へと向かっていた。
梓に声を掛ける生徒は居る物の、公平に対しては真逆の状態が続くのだった。
「さぁ 教室よ」
「うん」
教室へ入った2人、ここでも下駄箱から教室までと、同じ光景が繰り広げられる。
「梓、お早う」
「お早う」
「梓ちゃん、お早う」
「梓、お早う」
「お早う」
「今日も良い天気だな」
公平は窓際に有る自分の席へ座ると、平然と空を見上げたのだった。
英語の教師が教室を出て行くと、昼休が始まった。
「あー、やっとお昼だね、公平、お弁当食べに行こう」
「うん、梓」
「今日は、少し頑張ったから、よ~く味わってね」
「何時も有難う」
他愛も無い話しをしながら、人気の無い所へ向かう2人。
そこで梓から、真心のこもった手作り弁当を受け取る。
「梓、今日も美味しいよ」
「良かった」
何時も美味しいと言ってくれる公平を、分かってはいる物の、毎回目の前で聞いて安心する梓だった。
「所で、ラブレター見たの?」
「ううん、見て無いよ」
「見てみなよ」
興味津々な笑顔で公平を促すと、公平はそれに抵抗なく従う。
「梓が言うなら見ようかな」
「えっと、大切なお話がしたいので、放課後屋上で待ってます」
「公平、凄いね!凄いね!」
梓は喜び、公平は落ち込む・・・。
「きっと嫌がらせ、名前書いて無いしね」
「行かないの?」
「行かないよ」
「ご馳走様」
弁当箱に蓋をすると同時に話しを終わらせ、梓に渡したのだった。
「梓、有難う、今日も耐えられそうだよ」
「良いのよ、公平の側には私が居る、これは絶対だから」
この言葉に不満そうにしてた梓も笑顔に成り、差し出された公平の手によって立ち上がるのだった。
「そうだね、教室行こうか」
「うん」
「梓ちゃん、偶には皆で一緒にカラオケ行かない?」
数人集まってるクラスメートの中から、一人が代表して声を掛けてきた。
「御免ね、公平と帰るから止めとく」
「そっか残念」
「誘ってくれて有難う、また明日ね」
「うん、バイバイ」
はっきり断り、公平の待つ所へ向かうのだった。
「公平お待たせ、帰ろうか」
「カラオケ誘ってくれたのに良いの?」
「良いの、良いの」
2人の背中を見ながら悪態を付くクラスメイト達。
それは公平と梓にも流石に、聞こえては居なかった。
「何で公平なのかね?」
「ムカつくよな」
翌日の下駄箱では、梓が1通の封筒を取り出す。
「今日もラブレター入ってるね」
「うん、そうだね」
困り果てる中、昨日の事を思い出したかの様に覗き込む梓。
「公平は?」
「無い」
「そっか、教室行こう」
「今日も頑張ろうね、公平」
残念そうな梓を尻目に、公平は上履きに履き替えると、梓に微笑んだ。
「うん、梓がいれば大丈夫」
そう言うと梓も笑顔を見せ、並んで教室へ向かうのであった。
教室へ着くと、梓が隣の公平に話し掛ける。
「公平、今日のお弁当は・・・」
会話に割って入る2人の少女が、公平と梓の前に立っていた。
「お二人さん、お話の途中ごめんね」
「誰?梓知り合い?」
「公平、2学期にも成るのに、まだクラス全員の名前覚えてないの?」
「興味ないから、必要ない」
「まぁ、そだね」
当然だねとばかりに納得する梓、その様子に少し苛立ちを見せる少女。
「あのう、良いかなぁ?」
「梓、行ってきて良いよ」
「あ、うん」
梓が席を立とうとすると、慌ててそれを止める聡美。
「ああ、違うんだ僕達は、伊藤公平君に話があるんだ」
「俺に?誰?」
「えっと、僕は河原聡美、隣に居るのは飯田結衣、一応クラスメイトなんだ」
「おいおい、クラスの美人3人が、なんで公平を取り囲んでるんだよ」
「梓は分かるけど、飯田や河原まで、あんな変な奴に、有り得ないだろ」
「金持ちだからじゃねえの、羨ましい限りだぜ」
「才能無くても、金があれば勝者か、良いよな」
全ての言葉が4人に聞こえてくる、公平と梓は慣れてる物の、結衣と聡美は動揺を隠せないでいる。
「ははは、陰口って意外と聞こえるもんなんだね」
「今頃気が付いたの?結衣も聡美もさっきまでは、向こう側の人間だったのよ」
梓が険しい顔で結衣と聡美を睨んでいる中、公平はごくごく自然と要件を聞き出すのだった。
「それで、飯田さんと河原さん、俺に話とは?」
「ああ、えっと話すと長くなるから、お昼食べながらで良いか?」
「分かった、飯田さん」
「結衣で良いよ」
「公平君、僕は聡美で良いからね、それじゃぁお昼にね、公平君、梓君も」
意図的に作られた微笑みを見せて去って行く、結衣と聡美。
「話って何だろうね」
「梓は気になるの?俺は興味ないけどな」
そう言うと、公平は空を見上げるのだった。
昼休み、公平と梓は人気の無い場所へ向かう。
何時もと違うのは、2人の少女が不安そうに後をついて来ている事だ。
「梓、公平どこまで行くんだ?」
「結衣、嫌なら来なくて良いよ」
何時もの感情がこもって無い言葉に、少しの苛立ちを感じる結衣。
「公平、嫌とは言って無いだろう」
「着いた」
「体育館裏かよ、まぁ丁度良いか」
「はい、公平お弁当」
「有難う」
梓が笑顔で手作り弁当を差し出すと、公平は即座に開け食べ始めるのだった。
「公平君のお弁当は、何時も梓君が作ってるの?」
「そうなんだ、公平はお弁当作ってこないと、お昼食べないからさ」
「ずっと思ってたんだけど、梓と公平は付き合ってるのか?」
「嫌だな結衣、付き合ってないよ」
何故か否定する梓の顔は緩みきっている・・・
「そっか公平君と梓君は、恋人同士では無いんだね」
「聡美」
「何?公平君」
「違う、恋人以上」
「そ、そうなんだ」
首を傾げる結衣と聡美。
「うん、梓と公平は恋人以上だよ」
梓も自慢げに公平と同じ事を言い出す。
「ははは、すごいな梓」
結衣と聡美は顔を見合わせ、2人の関係の謎に分からず、意味の無い苦笑いをするしか無いのだった。
「梓、ご馳走様、今日も美味しかったよ」
「良かった」
「ああ、大事なこと忘れてた、公平は昨日なんで屋上来なかった?」
「あの手紙は結衣?」
梓を立ち上がらせながら聞く公平。
「そうだよ」
「そっか、御免なさいお断りします」
「教室行こう、梓」
即答で答えを返し、教室へ向かう。
「良いの?公平」
「良い興味ないから」
「ちょっと待った、待った何勝手に人を振ってるんだよ」
焦り声を張り上げて、公平を振り返らす結衣、公平はその言葉が終ると同時に、聡美を振った。
「違った? 聡美? 御免なさいお断りします」
「違う、違う、公平君」
慌てて否定する聡美、しかしマイペースな公平は、そんな彼女達に気を使う事は無いのであった。
「もう昼休み終わるから、教室行く」
「意外と手強いな、聡美」
「そうだね、結衣」
放課後、帰り支度の出来た公平が梓に声を掛ける。
「梓帰ろう」
「うん」
2人の前に結衣と聡美が立ちはだかると、梓が露骨に嫌な顔を見せる。
「公平君ちょっと良いかなぁ」
「俺帰るから、また明日という事で、結衣、聡美」
「待てよ、公平」
脇をすり抜けた公平と梓を、追い駆けるように教室を出て行く、結衣と聡美。
「何なんだ? 公平のやつ結衣とか聡美って呼んでたぞ」
「よく分からねぇけど、どうせ金の力じゃねえの?」
公平は常に嫌われ者だった。
最初のコメントを投稿しよう!