#2 お坊ちゃまは嫌われ者

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#2 お坊ちゃまは嫌われ者

公平と梓は教室へと向かっていた。 梓に声を掛ける生徒は居る物の、公平に対しては真逆の状態が続くのだった。 「さぁ 教室よ」 「うん」 教室へ入った2人、ここでも下駄箱から教室までと、同じ光景が繰り広げられる。 「梓、お早う」 「お早う」 「梓ちゃん、お早う」 「梓、お早う」 「お早う」 「今日も良い天気だな」 公平は窓際に有る自分の席へ座ると、平然と空を見上げたのだった。 英語の教師が教室を出て行くと、昼休が始まった。 「あー、やっとお昼だね、公平、お弁当食べに行こう」 「うん、梓」 「今日は、少し頑張ったから、よ~く味わってね」 「何時も有難う」 他愛も無い話しをしながら、人気の無い所へ向かう2人。 そこで梓から、真心のこもった手作り弁当を受け取る。 「梓、今日も美味しいよ」 「良かった」 何時も美味しいと言ってくれる公平を、分かってはいる物の、毎回目の前で聞いて安心する梓だった。 「所で、ラブレター見たの?」 「ううん、見て無いよ」 「見てみなよ」 興味津々な笑顔で公平を促すと、公平はそれに抵抗なく従う。 「梓が言うなら見ようかな」 「えっと、大切なお話がしたいので、放課後屋上で待ってます」 「公平、凄いね!凄いね!」 梓は喜び、公平は落ち込む・・・。 「きっと嫌がらせ、名前書いて無いしね」 「行かないの?」 「行かないよ」 「ご馳走様」 弁当箱に蓋をすると同時に話しを終わらせ、梓に渡したのだった。 「梓、有難う、今日も耐えられそうだよ」 「良いのよ、公平の側には私が居る、これは絶対だから」 この言葉に不満そうにしてた梓も笑顔に成り、差し出された公平の手によって立ち上がるのだった。 「そうだね、教室行こうか」 「うん」 「梓ちゃん、偶には皆で一緒にカラオケ行かない?」 数人集まってるクラスメートの中から、一人が代表して声を掛けてきた。 「御免ね、公平と帰るから止めとく」 「そっか残念」 「誘ってくれて有難う、また明日ね」 「うん、バイバイ」 はっきり断り、公平の待つ所へ向かうのだった。 「公平お待たせ、帰ろうか」 「カラオケ誘ってくれたのに良いの?」 「良いの、良いの」 2人の背中を見ながら悪態を付くクラスメイト達。 それは公平と梓にも流石に、聞こえては居なかった。 「何で公平なのかね?」 「ムカつくよな」 翌日の下駄箱では、梓が1通の封筒を取り出す。 「今日もラブレター入ってるね」 「うん、そうだね」 困り果てる中、昨日の事を思い出したかの様に覗き込む梓。 「公平は?」 「無い」 「そっか、教室行こう」 「今日も頑張ろうね、公平」 残念そうな梓を尻目に、公平は上履きに履き替えると、梓に微笑んだ。 「うん、梓がいれば大丈夫」 そう言うと梓も笑顔を見せ、並んで教室へ向かうのであった。 教室へ着くと、梓が隣の公平に話し掛ける。 「公平、今日のお弁当は・・・」 会話に割って入る2人の少女が、公平と梓の前に立っていた。 「お二人さん、お話の途中ごめんね」 「誰?梓知り合い?」 「公平、2学期にも成るのに、まだクラス全員の名前覚えてないの?」 「興味ないから、必要ない」 「まぁ、そだね」 当然だねとばかりに納得する梓、その様子に少し苛立ちを見せる少女。 「あのう、良いかなぁ?」 「梓、行ってきて良いよ」 「あ、うん」 梓が席を立とうとすると、慌ててそれを止める聡美。 「ああ、違うんだ僕達は、伊藤公平君に話があるんだ」 「俺に?誰?」 「えっと、僕は河原聡美、隣に居るのは飯田結衣、一応クラスメイトなんだ」 「おいおい、クラスの美人3人が、なんで公平を取り囲んでるんだよ」 「梓は分かるけど、飯田や河原まで、あんな変な奴に、有り得ないだろ」 「金持ちだからじゃねえの、羨ましい限りだぜ」 「才能無くても、金があれば勝者か、良いよな」 全ての言葉が4人に聞こえてくる、公平と梓は慣れてる物の、結衣と聡美は動揺を隠せないでいる。 「ははは、陰口って意外と聞こえるもんなんだね」 「今頃気が付いたの?結衣も聡美もさっきまでは、向こう側の人間だったのよ」 梓が険しい顔で結衣と聡美を睨んでいる中、公平はごくごく自然と要件を聞き出すのだった。 「それで、飯田さんと河原さん、俺に話とは?」 「ああ、えっと話すと長くなるから、お昼食べながらで良いか?」 「分かった、飯田さん」 「結衣で良いよ」 「公平君、僕は聡美で良いからね、それじゃぁお昼にね、公平君、梓君も」 意図的に作られた微笑みを見せて去って行く、結衣と聡美。 「話って何だろうね」 「梓は気になるの?俺は興味ないけどな」 そう言うと、公平は空を見上げるのだった。 昼休み、公平と梓は人気の無い場所へ向かう。 何時もと違うのは、2人の少女が不安そうに後をついて来ている事だ。 「梓、公平どこまで行くんだ?」 「結衣、嫌なら来なくて良いよ」 何時もの感情がこもって無い言葉に、少しの苛立ちを感じる結衣。 「公平、嫌とは言って無いだろう」 「着いた」 「体育館裏かよ、まぁ丁度良いか」 「はい、公平お弁当」 「有難う」 梓が笑顔で手作り弁当を差し出すと、公平は即座に開け食べ始めるのだった。 「公平君のお弁当は、何時も梓君が作ってるの?」 「そうなんだ、公平はお弁当作ってこないと、お昼食べないからさ」 「ずっと思ってたんだけど、梓と公平は付き合ってるのか?」 「嫌だな結衣、付き合ってないよ」 何故か否定する梓の顔は緩みきっている・・・ 「そっか公平君と梓君は、恋人同士では無いんだね」 「聡美」 「何?公平君」 「違う、恋人以上」 「そ、そうなんだ」 首を傾げる結衣と聡美。 「うん、梓と公平は恋人以上だよ」 梓も自慢げに公平と同じ事を言い出す。 「ははは、すごいな梓」 結衣と聡美は顔を見合わせ、2人の関係の謎に分からず、意味の無い苦笑いをするしか無いのだった。 「梓、ご馳走様、今日も美味しかったよ」 「良かった」 「ああ、大事なこと忘れてた、公平は昨日なんで屋上来なかった?」 「あの手紙は結衣?」 梓を立ち上がらせながら聞く公平。 「そうだよ」 「そっか、御免なさいお断りします」 「教室行こう、梓」 即答で答えを返し、教室へ向かう。 「良いの?公平」 「良い興味ないから」 「ちょっと待った、待った何勝手に人を振ってるんだよ」 焦り声を張り上げて、公平を振り返らす結衣、公平はその言葉が終ると同時に、聡美を振った。 「違った? 聡美? 御免なさいお断りします」 「違う、違う、公平君」 慌てて否定する聡美、しかしマイペースな公平は、そんな彼女達に気を使う事は無いのであった。 「もう昼休み終わるから、教室行く」 「意外と手強いな、聡美」 「そうだね、結衣」 放課後、帰り支度の出来た公平が梓に声を掛ける。 「梓帰ろう」 「うん」 2人の前に結衣と聡美が立ちはだかると、梓が露骨に嫌な顔を見せる。 「公平君ちょっと良いかなぁ」 「俺帰るから、また明日という事で、結衣、聡美」 「待てよ、公平」 脇をすり抜けた公平と梓を、追い駆けるように教室を出て行く、結衣と聡美。 「何なんだ? 公平のやつ結衣とか聡美って呼んでたぞ」 「よく分からねぇけど、どうせ金の力じゃねえの?」 公平は常に嫌われ者だった。
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