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#3 お坊ちゃまは優しい
「結衣、聡美何処まで付いてくるの?」
「梓は何処まで付いて行くんだよ」
「家に入るのを見送るまでよ」
「梓、気にしないで良い、俺は大丈夫」
「うん、分かった」
こんなやり取りを数十回と繰り返し、公平の屋敷の前に着いた。
「梓、インターホン鳴らしてくれるかな」
「お帰りなさいませ、公平様、梓様、なぜインターホンをお使いで?」
不思議そうに門まで迎えに来た仁に、公平は訴える。
「仁、あの2人ストーカー」
「な! 違う、クラスメートで話しが有るって知ってるだろう」
「ああ、飯田結衣様と河原聡美様」
「仁、知り合い?」
「はい」
「仁さん、大丈夫なのね?」
「はい、安心して下さい、梓様」
梓はホッとした様で、公平から離れ皆が屋敷の中へ消えて行くのを、見送ったのだった。
屋敷へ入ると、仁が丁寧な接客をする。
「お二人共どうぞ中へ、広間にご案内します」
「でかい家だねぇ」
「うん、凄いね」
驚く2人を尻目に公平は、メイドにおやつの要求をする。
「かしこまりました、直ぐにご用意致します」
席に座ると、公平、結衣、聡美の元へ直ぐに運ばれてくる。
「今日はティラミスなんだね」
「はい、美味しく出来てると思います」
「うん、美味しいよ」
「公平君、このティラミス美味しいね、今までで最高だよ」
「うん、これは美味しいな」
結衣と聡美の言葉に少し機嫌を良くする公平。
「有難う、ここでの手作りだよ」
「仁、結衣と聡美が気に入ってくれたみたいだから、お替りを上げて」
「かしこまりました」
「公平君って、実は優しいんだね」
「そうだな、優しいよな」
褒められた所で何かを思い出した公平は、2人に尋ねるのだった。
「所で、なぜ2人は家に居るの?」
「え? 公平知らないのか?」
「あれ? 公平君遺言書見た?」
「財産とか経営とか興味ないし見てない」
「仁、遺言書見せて」
「少々お待ち下さい」
奥へ下がる仁、話が進み喜ぶ結衣と聡美。
「良かったな聡美、やっと話が通じたよ」
「そうだね、結衣」
「どうぞ、お持ちしました」
公平は父親が残した遺言書を隅々まで読み、暫くの間考え込んだ。
その間、結衣と聡美は絶品なティラミスを、心から堪能していたのであった。
「なるほど、拒否出来るんだね仁 孤児院施設の手配をお願い」
無感情な言葉で仁に命ずる公平、それに驚きを表す結衣と聡美。
「ん? 公平可怪しくないか?」
「そう? 拒否出来るんだよね」
「仁、施設の手配をお願い」
「待って公平君、それはいくら君でも冷たく過ぎないかな」
「うーん、うーんちょっと失礼」
考え込んだ公平は、携帯電話を取り出した。
「ああ、携帯なら断らないで使って、公平君」
1分後・・・
「急いで来たわよ公平! 大丈夫なの?」
「梓?」
「梓君?」
「今、公平からSOSが届いたのよ」
「梓、座って、今日はティラミスだよ」
真剣な顔で広間に飛び込んで来た梓が、満面の笑みに変え席へ座る。
「うん、ティラミスも好き」
「知ってる」
「あ、あのお二人さん」
「梓、これ読んでみて」
梓に遺言書を渡すと、梓も真剣に隅々まで読んだのであった。
「読んだけど、それで?」
「仁に、孤児院施設のお願いをした」
「公平が決めたなら良いんじゃない?」
「梓まで、慈悲とか無いのか?」
「慈悲? 梓どう思う?」
「はっきり言えば、今まで私達に慈悲の手を差し伸べてくれた人達は居ないわよね」
「俺もそう思う、結衣も聡美も向こう側の人間だった、言ったよね陰口って意外と聞こえるんだって、俺達はずっと我慢する事を選んだ、後1年半我慢すれば自由に成れるからね」
「でも公平君、今の僕達の境遇は・・・」
「待って聡美、2人の境遇は分かる、でも公平には公平の境遇もあるの、2人が好きで施設に居たわけじゃないのと同じで、公平も好きでお金持ちで居るわけじゃないの」
「それは梓の言う通りかもしれないけどさぁ、私達離れ離れになるかも知れないんだよ」
「決して迷惑掛けないから、公平君だめかなぁ?」
「梓の本心は?」
「私は、少しでも公平に心許せる人が出来れば良いと思ってるから、それに2人はとっても良い娘なんだよ」
公平は考えた、人と接するのは好きでは無いが、梓が言うなら仕方なく様子を見るかと。
「そっか、では保留1ヶ月で」
「1ヶ月か、でも有難う、梓も有難うな」
「公平君、無理言って御免ね、本当に有難う」
「気にしないで良いよ、俺は疲れたから少し寝る」
「梓も一緒に寝ようか?」
「有難う、今日は大丈夫」
「それじゃ、私も帰りますね」
「梓様、お気をつけて」
「なぁ 聡美、公平と梓ってどんな関係なんだ?」
「僕にも良くわからないけど、首の皮1枚って感じで助かったね」
「結衣様、聡美様、我が家の施設とルールをご案内します」
「はーい」
「宜しくお願いします」
「朝食は7時、夕食は19時には用意が出来る様に成ってます」
「最後に1番大事な事をお伝えします、我が家は公平様の一言で全てが決定されます、どうぞお忘れなくお願いします」
「では、19時にはお夕食が出来ますので、失礼します」
「結衣、改めてだけど凄い家だね、ベッドふかふかで最新のパソコンまであったよ」
「ああ、でも何となく公平の言いたい事の方が気に成るんだよなぁ」
「そうだね、公平君は何時も何もしていない、なのに勝手に周りから忌み嫌われて来た」
「ああ、もし私達が施設の娘だと皆が知ったら、同じだったのかもな」
「そうかもね」
「実際、今でも私達は恐れて隠し続けてるからな」
「結衣、聡美遅い」
「御免、何だか冷静になったら公平に悪いと思ってさ」
「僕達は何か勝手な言い分を、並べてただけかも知れないなと思っちゃってね」
「そんな些細な事気にする必要ない、俺が决めた事」
「有難うな、公平」
「有難うね、公平君」
「それにしても凄いご馳走だね」
「いただきまーす」
「これが普通だよ、頂きます」
「聡美」
「何かな?公平君」
「そのスマホのシールってゲームの?」
「そうそう、今ハマっててさぁ、公平君もこのゲームするのかな?」
「やってるけど、難しいよね」
「コツとか僕が考えた攻略法とか有るんだけど、良かったら教えて上げたいな」
「良いの?」
「全然良いよ、明日は帰ってきたら僕の部屋で一緒にやろうよ、もっとゲームが面白く成るからさ」
「ありがとう聡美、結衣はやらないの?」
「うーん 私はゲームとか興味ないからパスかな」
「そっか、分かった」
「公平~ 学校行くよ」
「お待たせ、梓」
「お早う、公平」
「お早う」
「結衣と聡美は後から来ると良い、無理に陰口言われる必要ない」
「あ、ありがとう公平君」
「いってらっしゃいませ、公平様、梓様」
「仁さん」
「何でしょう?結衣様」
「公平の心内が、全然解らないのだけど・・・」
「結衣様も聡美様も知り会ったばかりです、当然でしょう、ただ公平様の中には、自分なりの正義という柱が、1本強く立っていると私は思っております」
「そうだね、僕達は公平君の事を境遇だけで判断していた、彼は何時でも間違った事はしてなかった」
「ささ、お二人共登校を」
「いってきまーす」
「いってきます」
「お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「聡美、さっきだって私達を気遣って、後から来るように言ったんだよな?」
「そうだね、公平君は誰よりも強くて、優しいと思うよ」
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