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#5 お坊ちゃまは上級生に呼び出される
公平と梓・結衣と聡美は伊藤家の屋敷に帰ってきた。
「ねぇ結衣、僕達は仁さんに助けて貰ったのかな」
「そうだな、策士な執事さんだ」
「公平様、お帰りなさいませ梓様もご一緒ですね」
「結衣さま、聡美さま取り敢えずは宜しゅう御座いましたね」
「公平君の心を掴むには、梓君の心も大事なのかな」
「そうですな、決して浅くはない繋がりですからね」
広間の椅子に座ると、喜びながらおやつに手を伸ばす梓。
「美味しい、栗クリームだけでは無く、抹茶クリームも有るなんて」
「公平昨日は済まなかった、私の不注意で気が動転して暴力まで・・・」
「それは良い、当たって無いから大丈夫」
「これからは、札を間違えない様にするし許してくれないか?」
「分かった、梓のより大きいの見てビックリしただけだし、気をつけてくれるなら」
「何だかムカつくなぁ」
ロールケーキを頬張りながら剥れる梓。
「そうだ、梓私の分も良かったら食べないか? 今回は梓の協力有っての事だし」
「よかったね、梓」
「うん、許す」
梓の胸の価値は安いようだ・・・
「それじゃぁ、公平君、僕達はここに居て良いのかな?」
「良いよ、保留1ヶ月」
「それは僕も含まれるのかな?」
「結衣と聡美は一緒」
「はぁ、結衣」
「ごめん」
恨めしそうに結衣を見る聡美に、結衣は苦笑いをしながら謝ったのだった。
聡美は気持ちを切り替え、公平に話し掛ける。
「所で、明日の日曜日は、何か予定有るのかなぁ?」
「昼寝以外は、特に無いかな」
「そっか、時間が合ったら、僕の好きなゲーム紹介したいから、一緒に遊ばないかい?」
「うん」
翌日の昼食後
「ご馳走様でした」
「聡美、ゲームは少し昼寝してからで良い?」
「構わないよ、公平君は昼寝が好きだよねぇ」
「うん、幸せになれる」
明るいテンションで答える公平に、結衣は疑問を投げかけた。
「公平は外では遊ばないのか?」
「遊ばない」
「本当は運動神経良いんだろ?」
「ちょっと結衣」
無難に過ごしたい聡美は結衣を止めるが、それを遮り話し続ける結衣。
「一緒に住んでるんだ、私だって公平の事を知りたい、普通だろ?」
「俺は、力を隠してるよ」
「やっぱり、一昨日は偶然じゃなくて自分で避けたんだな」
「そう」
「でも今のままで良い、後1年半我慢するだけで全てが終わる」
「公平君1年半って卒業だよね、そしたら何があるんだい?」
「自由、それじゃまた後でね」
公平の後ろ姿を見送りながら首を傾げる、結衣と聡美だった。
「仁さん、自由って何ですか?」
「自由とは自由です」
「ん?」
「公平様は、人生を3回は遊んで暮らしてもお釣りが来る立場です」
「義務教育さえ終われば旅行していようが、各地の別荘を渡り歩こうが、家で昼寝してようが差し支えないのです」
「人生3回遊べるのかぁ」
「結衣、皆ここで偏見を持ってしまうんだと思う、だけど僕達は正面から向かい合うって決めたよね」
「そうだったな」
結衣と聡美の決意を聞いて微笑む仁。
「左様でしたか、もし公平様の信頼や信用を獲得できるなら、結衣様と聡美様も梓様の様にお守り下さるでしょう」
「女性の最終的な就職は結婚です、そこまでお守り頂ければと私も思っております」
仁としては2人の少女を気に入ってる様で、会話が和やかに進んで行く。
「成程ね」
「まぁ、今を一生懸命生きようよ、結衣」
翌日朝の学校屋上では、決してマトモとは言えない生徒達が集まっていた。
「へぇ~ そんなヤツぶん殴って、パシリにでもすれば良いじゃないか」
「何なら俺がやってやろうか?」
3年生やリーダー格の少年が、余裕そうな顔で話し合っている。
「兄貴が出る程でも無いよ、弱々しいお坊ちゃまだかさ」
「そっか、パシリにしたら俺にも紹介しろよ」
「分かってるよ」
「ははは、金持ちのパシリ良いな、最高だ」
10名に近い彼らは大声で笑うのであった。
「梓ちゃん、偶には俺達と話そうよ」
「私は結構よ」
「そんな事言わないで、ほら行こう」
「嫌、やめて」
今朝屋上に居た1人のクラスメイトが梓にチョッカイを出す。
見かねる公平が席を立つ。
「やめろ、梓が嫌がってる」
「うるせえんだよ、公平の分際で」
公平は後ろの机へ飛ばされた。
「痛ぁ」
「ふん、手応えねえな」
「公平大丈夫?」
梓は公平の元へ駆け寄り、怪我をしてないか心配をする。
「公平なんてほっといて、行こうよ」
「やめてーー」
そんな梓の腕を無理に取り、連れ去ろうとするクラスメイト。
「梓が嫌がってるだろう」
「だからうるせえんだよ」
飛んできた拳を交わすと、相手の顎にお返しの拳を打ち込み、倒れる所を蹴り上げる公平。
「あ~あ 完全に失神してるよ」
「公平がやったのか、意外と強いのか?」
クラス中が沈黙する中、1人の女子生徒が我に返り指示をした。
「保健委員連れてってあげなよ」
2人の保健委員に連れられて退室するクラスメイト。
「公平大丈夫?」
「平気、梓は俺が守る」
「有難う、もう授業始まるよ」
「うん」
意外な話だが公平と梓には悪い事をしたと言う自覚は微塵も無いのであった。
教室の扉は突然開き、怖そうな上級生が鉄パイプを片手に入ってくる。
「授業中すいませ~~ん」
「何だね君は?」
「3年の者ですけどリーダーに言われて、伊藤公平君を借りに来ました」
「今授業中だぞ、それと手にしてる物は何だ」
「うるせえぞ、見れば分かるだろ、鉄パイプだよ」
上級生の威圧に怯える教師・・・
「ああ、君が公平君だね、リーダーが弟のお礼をしたいって言うんで、屋上まで良いかな?」
「嫌だ」
相手の顔も見ずに即答する公平。
「拒否は出来ないんだよ」
「先輩、やめてあげてもらえませんか?」
梓が哀願する。
「もしかして君が梓ちゃん? 可愛いね何なら君でも良いかもな」
「公平君は悪くないんです」
「そうなんだ、だから出て行ってくれませんか」
「結衣、聡美」
「へぇ モテるんだね公平君、女の娘3人に守られて良いね」
「それじゃ 今日は梓ちゃんで明日は君達のどちらかと遊んでもらおうか」
「先生! 助けてくれないんですか? みんなも見て見ぬふりなの?」
梓はクラス中に訴えるが、教師を始め結衣と聡美以外は俯いたまま顔を上げる事は無かった。
「良いよなぁ、先生よぉ」
「・・・」
「分かった、俺が行く」
「駄目公平、私なら平気だから」
気怠そうに立ち上がる公平に縋り付き止める梓。
「やっと来る気になったか、良かった、良かった、では屋上行こうか」
公平は梓を振りほどき、上級生と教室を出て行ってしまったのだった。
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