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#6 お坊ちゃまは強い
上級生と公平が教室を出て行くと、梓は直ぐにスマートホンを取り出し119番へ掛けた。
「もしもし、救急車をお願いします・・・はいそうです・・・屋上です」
教師は学校の面目を保つために、梓を嗜める。
「中川、救急車を呼ぶほどでも無いだろう、学校の立場もあるし・・・」
「立場? ふふふ、ははは」
「梓君・・・?」
「駄目だ聡美、梓は完全に切れてる」
梓は我を忘れていた、大好きな公平の為にキレた梓は手段を選ばなかった。
「みんな良い、あなた達の両親が、伊藤家の取引関連や下請けの末端まで、数十万人働いてる中に居たら、これから掛ける電話1本で職を失うわよ、ボーッとしてないで調べた方が良いんじゃない?」
「そんな事出来るのか」
「公平君の執事ならするだろうね」
結衣の質問に、聡美はしみじみと答える。
結衣と聡美の話しを聞いてた生徒達は顔色を変え、騒ぎ始めるのだった。
「マジかうちの親は、えっと」
「もしもし仁さん、梓です・・・はい学校で・・・はい分かりました」
「救急車来たぞ」
「うわ、警察まで来た」
校舎全ての教室から校庭に注目が浴びた。
血で染まった公平が平気な顔で戻ってきた。
「梓、ただいま」
「うわー 公平のやつ結構やられたな」
「ああ、良く歩けるな」
この時点で梓以外は知らなかった・・・公平が無傷だった事を
「公平手は大丈夫? 今血を拭いて上げるからね」
「有難う」
「公平大丈夫か?」
「大丈夫、全部返り血だから、結衣、聡美心配掛けてごめん」
結衣と聡美も公平の言葉でホッとした様である。
制服姿の警察官が教室にやって来た。
「警察の者ですが、失礼しますね、伊藤公平君というのは君かな?」
「俺です」
「少し話を聞かせてくれるかな」
「はい」
公平は淡々とありのままを全て話す。
「成程、それで授業中にいきなり入って来て、前の娘をかばって屋上へ行ったんだね?」
「はい」
「先生は止めてくれなかったのかな?」
「はい、自分と俺を天秤に掛け見捨てられました」
「それは遺憾だねぇ、現場を見て来たんだけど落ちてた木刀やナイフ、鉄パイプは全部相手が持っていたんだね?」
「はい、8人全員が持っていました」
「救急隊員の話では、全員3ヶ月はベッドで安静だと聞いたんだけど、そこまでやる必要はあったのかな?」
「はい、中途半端で終わらすとまた来るので、2度と俺の顔を見れないように、恐怖を植え込みました」
「それだと、過剰防衛で君にも罪が出てくる可能性があるけど・・・」
「警察官さん、仕事続けたいならそこは考えない方が良いと思いますよ」
「どういう意味、あ 御免ちょっと待ってね」
警察官は肩越しにある無線で話しを始めた。
「はい、今話を一通り聞いた所なんですが、どうも過剰防衛の可能性が、はい確かに私が判断して決める事では御座いません」
「はい 直ぐ署に戻り被害者として書類を上げます、巡査部長」
「ほらね」
「君はいったい、まぁ 私はこれで失礼するね」
「先生、巡査部長から首が掛かってるのに、なぜ校長室に来ないのかねと言われましたけど?」
担任の教師は顔を青くし、警察官と共に教室を後にした。
公平は血を拭き取ってくれてる梓に声を掛ける。
「梓がこんな大事にしちゃったの?」
「梓君は公平君を心配してなんだよ」
「そうだぞ公平」
結衣と聡美の援護に助けられ、梓は公平の小言から逃れる事が出来たのであった。
「有難う、梓」
「うん」
「どうやら大体クラスの3分の2位は、多少なのも入れて伊藤家と関係有るみたいだね」
「あああ 家どうなるんだよ」
「公平何とかしてくれないのかなぁ」
「酷すぎだよなぁ」
「でも、そうなるとも限らないし」
教室はザワメキ嘆きが巻き起こっている。
丁度仁から連絡が来た所で、教室の状況を公平は話す。
「仁、教室が煩いから、そうお願い」
担任の代わりに教壇へ立つ仁、雰囲気は穏やかな物だった・・・
教室の入口には関係者の大人が並んで立っている。
「皆様初めまして、伊藤公平様にお使えする、仙道仁と申します」
「そして端から、巡査部長、校長、教頭、担任、皆様御存知ですよね」
「梓、俺知らなかったよ、校長と教頭」
「公平はそうだろうね」
「巡査部長、署長には私自らご挨拶に行くとお伝えして下さい」
「分かりました、では失礼します」
これで学校関係者だけが残る事に成る。
「では皆様、現在当企業では、ほんの僅かでも皆様のご両親が、関係会社に勤めてるようなら、その企業と縁を切ってでも、その方が解雇なるよう準備を進めてます」
「その後は、再就職に対して暫くの間は、圧力を掛けさせて頂きます」
「そんなの横暴すぎませんか?」
「納得できないし、訴えるぞ」
反論する勇気の有る生徒もいた。
「横暴? 皆様は公平様を見捨てたんですよね? 痛い目に遭って帰って来れば良いと思われたんですよね? 今まで陰口、悪口、今日は殴られても心配もしないし、止めなかったんですよね?」
「結局みなさんは強い方に味方して、何もしなかったんですよね?」
「なので、伊藤家も同じ事を思う事にしただけです」
「訴えるのはご自由に結構です、伊藤家としても全力でお相手します、弁護士を10人以上雇おうがです」
「校長、教頭、担任の3名には、教育委員会へ強い意見を報告させて頂きます、それと同時に訴える覚悟でございますので、ご承知しといて下さい、必ずや有罪にいたしましょう」
「私からは以上ですが、何かございますでしょうか?」
「慈悲とかないんですか?」
態度とは裏腹な仁の強い口調のせいで、出てくる言葉は慈悲を求む物だけだった。
そんな中結衣が突然立ち上がり、訴え始めたのだ。
「みんな!それは無いよ、私と聡美は今公平の家でお世話になってるんだ、元々孤児院出でさ、その時公平は嫌がった、それで私と聡美は今と同じ事を言ったんだ」
「そしたら梓が、今まであなた達が慈悲の手を差し伸べてくれた事があるの? って聞かれて答えを返せなかった」
俯いてしまった結衣に変わり、聡美が続きを話し始める。
「そうなんだ、良い機会だからみんなも、公平君や梓君がどんな思いで過ごして来たか、公平君が君達に何か害を与えたか、考えてみれば良いと思うな、もう遅いかも知れないけどね」
「それでは本日の所、公平様を引き取り失礼させて頂きます」
仁は教室が静まった所で、公平と共に教師を出て行った。
公平の居なく成った教室では、少しずつでは有るが会話が戻って来たのだ。
「確かに梓や結衣、聡美の言う通りだよな」
「公平は文句も言わず、ずっと耐えてきてたのか」
「皆ごめんなさい、私がパニックに成ってしまったばかりに・・・」
「それだって梓は、悪く無いんじゃないかな?」
「勿論公平もな」
「そうだな」
「でも公平って強いんだな」
「そう、それで救急車を呼んだのよ」
「そうなんだ、幼馴染は知っていたのか」
「本当に御免なさい、みんな」
「良いよ、梓」
「気にしないで、梓ちゃん」
公平の知らない所で、彼に対する評価は大きく変わった様だった。
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