小林先生のハンディキャップ

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「うわ、ダッセェ」  あの二人とは逆の方向から、本当につい漏らしましたみたいな声が聞こえてきたのでぎょっとして肩をすくめた。  恐る恐る振り返ったら、生徒が僕を見下ろしていた。 「……あ、あ」  なんか言えよそこはびしっと。と自分でも思うけど僕は言葉が出なくて、現在進行形で教えている生徒を地面に尻をついたまま見上げた。  二年の明智だった。  明智……密香(あけち みつか)だ、確か。  明智は長く真っ直ぐな黒髪をそよがせて仁王立ちして、じいっと僕を見ていた。  迫力ありすぎる三白眼に女子高生にしては高い身長は、地面から仰ぐとそれはそれは、たくましかった。  やっぱり、この子そうとうの美人だな、なんて思うんだけど、未成年だしそもそも生徒なので、そんなことは関係がなかった。  どぎまぎとようやく視線を外した僕に明智は「ふん」と鼻を鳴らした。 「せめて、拭けば?」 「え」  腕組みして顎をしゃくって、明智は心底冷たい声を投げた。 「鼻血出てんよ、あんた」 「……あ」  右手で鼻の下を擦った。どす黒い赤がべっとりとなすりつく。
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