小林先生のハンディキャップ

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「なんで知らないわけ? あたし、五月から不登校キメてんだよね」  九月の熱をはらんだ風が明智の規定よりやや短いスカートを揺らす。 「ああそういえば」  職員会議で名前が挙がっていたのを思い出す。  明智密香は出席に乱れがあるけれど、最低限の日数とコマ数を確保するように出ていて意図的なのではないか、と言っていた担任教師の横顔。  なお悪いことに、それさえなければ主席というほど、明智の成績は抜群によかったのだ。  他の生徒に示しがつかない、と嘆いていた数学教師の眼鏡に付着した脂。 「でも元気そうだよね」  少なくとも僕よりは。とは、当然だが言えなかった。 「なんで授業出てくれないの?」  つい本音がこぼれてしまって、まずいなと思ったら明智はぷぷーっとふき出した。  三白眼がしゅっと消えて目尻にくしゃっと皺が寄って、そうしたら明智は普通の子どもみたいに見えた。  それも非常にかわいらしい、子どもに。
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