東久邇宮家の少年と人狼ゲーム

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 ワンチャン他の人に話しかけているのではないか、椿は微かな期待を抱いて周りを見てみたが、この場には自分と東久邇宮の坊ちゃんしかいなかった。  逆に、何の用で私に話しかけられたのです??確かに先ハナにあなたの事を聞いてたけど、悪いように言ってないですよ...  「これ」  少年が片手を突き出して来た。目を丸くする椿の前に、少年は白い掌を開いた。その中にすっぽり収まっているのは椿のヘアピンだった。  「まじか、どこで落としたんだよ...」  馬鹿をやらかしたなと椿は軽く眉間を掴んだ。この人が見つけてくれなかったら、温子に衣装等を借りてるから申し訳ない思いをしたろうに。  「まあとにかくありがとう!」  昭彦からヘアピンを受け取った椿は、自分で髪の上にそれを留めようと頑張ったが、ズレるばかりで中々上手くいかない。  早う大人しく留まってくれよー!椿は心の中で自分の不器用さを呪った。またもや恥を晒しているのではないか。しかしヘアピンは自分が思う場所に留まってくれないから、椿は焦るばかりだった。  すると昭彦が堪り兼ねた様子で椿に言った。  「僕が直そうか?」  「あー、そうねそれがありがたいかも」  少年の提案にあっさり妥協した椿はヘアピンを昭彦に渡し、自分は大人しく待った。  一方昭彦は内心驚きを感じた。自分に頼ろうとしている人は、この少女が初めてである事。  椿の明るい純粋な茶色の瞳に見つめられて、昭彦は少しの間ヘアピンを握ったまま動けなかった。  この少女は初めて自分の顔をまともに見た人でもあるのだ。  「綺麗にお願いしゃす」  椿が頭を下げると昭彦は我に返り、気を取り直し丁寧な手つきで椿の髪にピンを留めた。そのせいで二人は至近距離にいたが、緊張しているのは昭彦の方だった。  学校では護衛が同級生を遠ざけているせいで、話しかける事はおろか、同齢同士で近づく事も許されていないのだ。  「鏡で見てないけど、これで良いと思う」  「いえいえ!どうもありがとう!」  嬉しさと恥ずかしさが入り混じった椿の明るい笑顔を見て、いくら物静かな昭彦でさえ口角を吊り上げた。  昭彦が笑うと、先まで顔を覆っていた分厚い雲が晴れたみたいだ。表情のせいで悲しそうに見えたから、本当は明るい性格なのかもしれない。  「あ...」  「えっと...」  そこから曖昧な空気が漂って、二人ともどうして良いか分からずただ苦笑を浮かべていた。別れと告げても気まずいし、二人きりであるこの場をどう過ごせば良いのか。  ちょうどその時、向こうの席で護貞が大声を張り上げた。  「椿さん!温子がカードゲームをやらないかって言ってます!」  「はい!行きます!」  椿が離れると聞いて、昭彦はまた少しばかり顔を曇らせた。せっかく誰にも隔たれず、ちゃんとした話し相手に出会ったというのに...    しかし呼ばれても椿は足を動かそうとしなかった。行かなくて良いのかと昭彦が言う前に、  「ねえ、その...東久邇宮...?さんも一緒に来ない?」  「えっ」  少女の思いがけない誘いに、寂しさを感じていた少年が息を呑んだ。    「えっと、時間があればって事だよ!」  昭彦の戸惑いを見てとって、椿は慌てて付け加えた。昭彦は椿の顔を見つめ、その誘いは社交辞令ではなく本心からの誘いだと分かった。  「まず“人狼”をやりたいそうです!」  護貞がまた叫んで来て、椿もすぐ叫び返した。  「ルールは教わってますか?」  護貞が一瞬後ろに振り返って温子と言葉を交わした。目を凝らして見る限り、先自分がいたテーブルに七人ほど集まっている。  「大丈夫だそうです!」  「了解!ありがとうございます!」  バッチリじゃないか!さすが温子さん!と椿は心の中で感心した。まだ決めかねている昭彦を見て、椿は悪戯っぽく瞬きして言った。  「とりあえず来てみなよ!きっと楽しいから!」  「あっ」  問答無用で昭彦の手首を掴み、椿は前へと進んだ。いきなり手を引かれた事に昭彦が驚異な目を見張ったが、解こうとしなかった。ついて行ってみたいと言う昭彦の思いからだった。  温子達がいるテーブルに向かうと、やっとここにいるメンツを確認できた。  近衛夫妻や昭子抜きで、知っている人で温子、護貞、秀麿、通隆がいる。更に自分の誘いに乗ってくれた米内を含め同じテーブルで談笑していた三人もいる。  遠くで誰かと話し合っている近衛の姿を目の端で捉え、近衛さんはいないのか...と少しがっかりして椿は肩を落とした。  「同じ軍部の人は俺ら三人しかおらんくて、そんで米内に誘われて来てみたけれど、素敵な淑女と紳士ばっかりですなあ!ハハッ」  山本と言う人が賑やかな笑い声を立てた。あまり軍人と接した事がなかった近衛家+細川家は緊張したような硬い笑みを浮かべた。  「温子さんありがとうね!進行役は私でよろしくて?」  「ええ、お願いするわ!」  人のいないテーブルから二人分の椅子を借りると、温子が椿の後ろにいる人に気づいて目を丸くした。  「こちらは東久邇宮家の昭彦様?」  一体どこからそんな偉い人を連れて来たのさと言わんばかりに、首を傾げつつ温子達が席を立った。海軍の方々も恐れ多い感じで昭彦に頭を下げている。  同じ華族だとしても、東久邇宮家は一番天皇に近い事を知っているからだ。  「はい、僕がそうです。このゲームに参加したくて参りました」  昭彦が礼儀正しく呆然とする一同にお辞儀すると、誰もが体を二つに折って深くお辞儀を返した。  「だそうです。さっ、始めましょう!」  意外と人が集まっていると見て、大喜びした椿はトランプの束に手を伸ばし、手際よくカードを切って一人一人に渡した。  「ジョーカーが人狼、ジャックが村人、エースが狂人、占い師がクイーン、そして騎士がキングだったな」  先ほど温子に説明されたルールを確認して、分析するような口調で井上が少女に聞く。  「ですです!テキトーに配ってるから、しっかり自分の役職確認してねー」  「初めてだから出来るかなあ」  米内が自分のカードを見ながら、色白の頬に微笑みを湛えた。それに対し椿は自信ありげな笑顔を見せた。  「そんなに心配しないでくださいよー、ここにマスターがおるから分からん事があれば聞いてくださいよ」  椿からカードを渡された秀麿が「人狼でありませんように、人狼でありませんように」と祈っているのを、通隆が白い目で養父を見た。  椿が全員のカードを一枚ずつ配り終えると、まだ明彦に人狼ゲームのルールを説明してない事を思い出した。  「言うの忘れてた!えっとね、今やってるカードゲームは人狼ゲームと言いまして...」  To Be Continued... let’s play werewolf game together !  【作者:言うの忘れてしまいましたけど、山本さんと言うのはかの有名な海軍大将の五十六さんです。井上さんは同じ海軍の井上成美さんです。 (苗字からして“なるみ”って呼びたくなるんですが、正しい読み方は“しげよし”だそうですd(^_^o)  オリキャラや色んな実在人物を含め、沢山の人がいて楽しいと思います( ´∀`)ただし駄作者の自分がちゃんと覚えれる事が心配です】
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