初恋の唄

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初恋の唄

 「人狼は村人を食べるんです。占い師は人狼を知るための役職で...」  手短にゲームのルールを昭彦に説明して、最初のうちはあたふたしていたが、元々頭の回転が速いから明彦はすぐゲームに慣れる事ができた。  「ジョーカーを持つ人狼の方ぁー、顔を上げてくださいー」  進行役の椿が言うと井上と顔が若干青い秀麿が、互いに「おっと」と言った様子で顔を見合わせた。  初対面の井上さんは何だかんだポーカーフェイスで押し通せそうで、疑いをかけられても晴れるだろうと椿が思う同時に、てか、秀さんまた人狼じゃん!  「次に占い師の方ー、誰を占いたいのか教えて下さい」  これを聞いて護貞が顔を上げた。「どうだろう」と言う顔で温子のカードをこっそりひっくり返して見ると、軽く頷いてまた顔を伏せた。  「次に騎士の方ー、守りたい人を教えてください」  毅然とした表情で昭彦が顔を上げ、秀麿と同じ温子を指さした。紳士なとこあるじゃん、椿は小さく昭彦に笑いかけて次の指示を出した。  「狂人の方ー、起きてくださいー」  温子が顔を上げ、椿と目が合うなり狂人らしく変顔をしてみせた。吹き出しそうになるのを抑えつつ椿は言う。  「じゃあ残りの方々は村人ですね。さあ、夜が明けましたよ。おはようごぜーやす」  「おはようございます」と返す全員は緊張した面持ちだった。自分達の中で誰が人狼なのか、その反面食われて淘汰されてしまうのではないかと言うスリルはこのゲームにしかない。  「では、話し合いの時間を3分与えます」  「村人だ」  最初に井上が眉を一つ動かさず切り出した。続いて皆が村人だと言うので、早速疑いの嵐が巻き起きた。  「全員村人な訳なかろう」  秀麿が疑わしげに一人一人の顔を見回した。確かにこのまま皆が村人と言い続けるとゲームとしては進まない。  「僕は占い師です」  不意に護貞が告げた。「先程村人と言ったのではないか」と秀麿がギョッとしてる。秀さん、あまり表情を変えすぎると疑われますぜ...  「温子のカードを占いましたが、彼女は村人でした」  夫婦間の優しさからなのだろうか、護貞は敢えて温子が狂人だと言う事を言わなかった。まあ、占ったって狂人は一応村人だけどね。  「疑いをなくしたいので、僕は村人陣営です」  ここで昭彦も発言する。嘘か真か分からないが、少年の透き通った瞳を見る限り誰も疑う気にはなれなかった。  大体流れは掴んできたと思う一同の中で、山本が頬杖をつきながら秀麿を見やった。  「俺個人的に思うのは、そう言う近衛さんが怪しいですぞ」  「なっ、何でだ」  怪しいと言われ、秀麿が明らかに取り乱した様子を見せた。その顔が殊更皆の不信感を誘ったのだ。  頑張れ、秀さん...なんか言わんと、吊し上げられそうだぜ。  「秀麿おじさんカードを取った時笑ってましたよ」  通隆が眉を吊り上げて言うと、周りの人が肯定的に頷いた。  「まあ確かにそうですが...」  昭彦が冷静な目つきでしっかり秀麿を観察した。いくら仕草が怪しく思う所があると言えども、慎重にならないといけない。  「でも、私から見たらそれは安心した笑いでしたよ」  狂人の役目を果たすため、すかさず温子が弁解に入った。それを有り難そうに秀麿が見る。  「だって人狼のカードを取ったら大変じゃないですか。村人とかだったら安心して、『よかっ た』と思うはずです」  「うむ...」  温子の言い分に一理あるような気がする。とりあえず秀麿の事を置いといて、疑いの矛先が先からずっと一言も話さなかった米内に向かった。  「米内、お前はどう思う」  山本が少しおっさんの方に身を乗り出して聞く。  「僕ネ...」  米内はおもむろにグラスを回して、皆がじっと自分を見つめる中、目を細めながら答えた。  「あまり人を疑うのが得意ではないけど、井上君が怪しいと思うなあ」  「俺?」  目を丸くする井上に対し、「僕が思うには」と米内が言葉を継いだ。  「カードを取った時に顔を手で覆ってたのが見えて、その時怪しいと思った」  「何が悪い」  海軍らしい動じない姿勢を見せつつ、井上が眉を顰める。  「ごく自然にやってたもんで『ヘックシッ!』  その時秀麿が唐突に大きなくしゃみをして、その拍子でグラスのワインが溢された。おかげで一同の緊張が解れた。  「秀さん何やってんのさ...とりあえずここで一旦中止」  「ウェイタぁー!タオルを持ってきてー!」  同じ頃、ちょうど東久邇宮の当主と対談をしていた近衛が騒ぎを聞きつけて、自然と椿たちがいるテーブルの方に顔を向けた。    先椿が自分を誘った、あの“人狼”と呼ばれたカードゲームをやっているのか。  集まった人達の中で海軍の姿もいる。椿が知り合いがいない時代に来て早々、その交友範囲が改めて感心するものがある。  楽しそうに何かの話し合いに興じているのを見て、近衛は少し羨ましさを覚えた。  自分が総理という多忙な身でなければ、椿と時間を共にしていたかった。  「近衛公のテーブル、楽しそうにしていますねえ...」  同じように椿たちのテーブルを眺めている東久邇宮が言う。近衛も目を凝らして見ると、そのテーブルにいる少年の姿が目を引いた。  「...おや、あちらにいらっしゃるのは昭彦様ではありませんか」  「真か!」  東久邇宮は自分の息子の名を聞いて、驚いて振り返った。近衛が言った通り、紅の着物を着た少女の隣にいる昭彦が大きく顔を綻ばせているのが見えた。  「本当だ...」  柔和な笑顔で側の少女と言葉を交わし、同じテーブルにいる人達とさも楽しげに微笑んでいた。  最高に幸せ、これ以上満足することなんて、絶対にないというみたいに。  「...あの子、実の母親を亡くしてからあんな笑顔。見た事がなかった...」  寂しそうな口調で東久邇宮が近衛に言った。近衛も「そうでしたか...」と濁った語尾の言葉を返した。  「あんな天真爛漫な笑顔...あの子自身じゃ到底浮かべる事ができない...」  東久邇宮は暫く少女と昭彦の背中を見つめ、仲良くしている姿を視界に収めた。  「近衛公はあの少女にご存知ですか」  「はい。次女の召使いです」  普段周りの事には気にも留めない東久邇宮が、どうして椿の事が気になったのか。近衛は横その真意を探りたかった。  「...身分はかなり異なるが、あの少女を昭彦の許嫁にしてみてはどうだろうか」  「えっ?!」  あまりにも急すぎて、近衛は思わず頓狂な声を上げた。聞き間違えでなければ、椿を昭彦様の許嫁にする?  「如何なる方法であろうと、これが昭彦の幸せになるのであれば...」  親として子を思いやるのは当然な事だが、幾ら寂しい思いをなさったと言えども、椿を東久邇宮家に嫁がせるなんて事はあり得ない。  仮に実現できれば前代未聞でかつ大変喜ばしい事だが、本音を言えば自分はそんな事にしたくないのだ。  ...もし椿が本当に昭彦に嫁いだら。  そこまで考えると胸の底から残り多く、未練がましい感情が泉のように溢れて来た。  自分は椿の親でもないのに、「行くな」と強要する事はできない。自分は弱く、椿を自分の元に引き留める力なんてありはしない。  結局の所、この人知れない愛慕は自分勝手な産物だ...  「何だ、言ってみただけだ」  話し合いに戻ろう、東久邇宮が軽い口調でこの話題を終わりにしたと見て、近衛は密かに胸を撫で下ろした。  To Be Continued...  【作者:最近何気にこのTo Be Continuedと言う終わり方にハマってます^o^  人狼ゲームは数えるほどしか遊んだ事がないので、もし何か違う所があれば遠慮無く言ってくださいm(._.)m】
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