血と死と愛の先に――

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 ただ、悲しかった。  燃える戦場。襲い掛かる兵士。切り傷が熱を帯び、激痛を発する。  刀を振るい、敵兵を切り裂き、スロウスは轟音に似た絶叫とともに走る。  赤く染まった月にかぶせるような血飛沫が立ち上り、スロウスは今日何人目か知らぬ敵を切り殺した。  「奴はどこだ!」  「追え、追えぇ!」  どたどたと襲い掛かる二人の兵士を一閃で喉元を切り裂く。  「くそ、キリがねぇ!」  背中が怖い。  前だったら相棒が背中を守ってくれた。だから、警戒する場所は、ただ真正面だけだった。しかし、彼はもういない。どれだけ苦しくても、一人で戦うしかないのだ。  第四次世界大戦の最中の出来事だった。他の者は形勢不利を悟って撤退し、スロウス一人が殿を務めていた。金髪と青の軍服を血に染め、スロウスは咆哮する。  願わくは、唯一愛した男に届くことを願って。  彼――サーシャ・ウィンドと出会ったのは、約一年前、第四次世界大戦の最中のことだった。  補充として派遣されたサーシャは華奢な体つきで、女性だと偽っても通るレベルの美貌を持っていた。年齢も十七と隊士の中ではぶっちぎりで最少年だった。長い髪、儚げな目元、軽やかな声色、秀麗な顔つき。だからこそスロウスをはじめ、他の面々は完全に彼を見くびっていた。  第一の戦場で、彼の恐ろしいほどの強さを見るまでは。  「お前つえーんだな!」
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