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「西の魔女……やっぱ強えわ……」
大地に突き刺したロングソードにもたれかかり、傷だらけの剣士は大きく呼吸を乱した。
魔女と対峙しているのは4人で、たった今弱音を吐いたカイル、そして手負いの彼に肩を貸したシオン、その隣には全身をフルプレートのごっつええ重装備で固めた剣士ドレッド、彼はカイルの兄だ。
そして最後に彼等の後方で待機しているエレナ。
彼女も剣を装備しているが、本職は剣士ではなく、ビーストテイマーと言って、獣を使役し戦わせる事が出来る能力を持っている。
だがその肝心な獣は、既に魔女に倒されてしまった為か、1匹も見当たらない。
「どーーすんのよカイル!、村から借りた魔獣のバトルラビットはやられちゃったし!、ドレッドはさっき遭遇したゴブリンに武器を奪われて使い物にならないし!、それにカイルはダメージ受けすぎだし!、もーっ!、一巻の終わりよーー!」
エレナのマシンガントークが炸裂する。
それ程の元気があるのなら……負傷者の俺と前衛を交代して欲しいものだが………。
「あのなーエレナ!?、過去の出来事を都合よく変えているみたいだから、もう一度教えてやるよ!。バトルラビットはあの魔女にやられたのではなくて、魔女に遭うまでの道中、おまえがモフモフし過ぎたから、あの子は愛想尽かして、おまえから逃げたんだよ!、この大馬鹿者が!……あと、ドレッド兄については……いつもの事だし、あれは仕方ない……そっとしておいてやってくれ」
「ムキーーーーーッ!、なんでいっつもドレッドのやらかしたミスだけはそうやって庇うのよ!。カイルの馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿!」
そう言ってエレナは涙目になると、悔しそうにスカートの裾を前歯で噛んで、歯ぎしりする。
「ぬ゛あ゛あ゛あ゛!。すまないな弟妹よ!、この私も、素手で戦ってはいるのだが、まるで歯が立たん!。やはり剣が必要だ!」
ドレッド兄が魔女の魔法攻撃をまともに受けながらそう言った。
兄さんの防具はかなり高性能だから、今の所心配ないと思うが、武器もなく、相手に攻撃が入らなければ勝負にもならない。
「カイル、私の力、解放する、必要なら……クンクン」
俺の肩を背負っているシオンは、そう言うと、さらに身体を密着させ、俺の匂いを嗅いできた。
「はぁ………。出来ればシオンの血に流れている勇者様の力はここで使いたくないよ……それに何故俺の匂いを嗅ぐ」
この動物っぽい性格をしているシオンは、なんと勇者の娘だ。
だから英雄である勇者の血を引いている。
勇者の力は確かに強力だが、彼女は勇者成り立てである為、その能力を上手くコントロール出来ない。最悪身体に負担がかかりすぎて、衰弱状態になってしまう可能性もある。
「クンクン……オス、匂い、堪能、私、発情」
顔を赤くして俯くシオン……。
こんな状況でなければ、げんこつの刑に処する。
「ボス戦の時に1人勝手に発情してんじゃねえーーよおおお゛お゛!」
俺は普段の調子で盛大にツッコミを入れた。
そんな俺達のグダグダな様子を見ていた西の魔女のババアは、ギックリ腰になるくらいに、大きく腰を折り曲げて、豪快に大笑いして言う。
「アーーハッハッハッハ!、こんな面白い冒険者達と戦うのは久しぶりだよ!。おまえ達は冒険者というより漫才師に向いていると思うがね?」
俺達は真面目に戦っているつもりだが、どうも敵からは、漫才師のように見られる事が多い。
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