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「ハァ…ハァ…、シオン、頼む、無事で居てくれ」
魔獣の遠吠えが何度も鳴り響く薄暗い森の中、そこには行方不明となった大切な仲間を救う為、呼吸を乱して疾走している1人の少年の姿があった。
「グァウ!」
「うおあっ!」
茂みの中から突然襲いかかった魔獣に驚くも、抜刀し、それを斬り捨てる。
「ふん……雑魚は引っ込んでな。お前ら如きに、人狼は使うまでもねえよ」
こんな状況だと言うのに、雨が降って来た。
それも次第に強くなり、風の勢いも増して行く。
土砂降りになった頃、獣達の遠吠えは、落雷の音に変化した。
「っくそう!」
(────絶対に見つけてやる!、待ってろよ!。シオン!)
カイルはシオンと幼馴染だ。
ある日、勇者を引退した者が、カイルの住む故郷である、ロザリー村に引っ越して来た。
妻と娘もおり、その娘がシオンにあたる。
その頃、カイルの父と母は既に他界していた。
ロザリー村襲撃事件の日に、皆殺されたのだ。
勇者を引退したクリスは、村の復興に貢献する。
身を守る術や、作物の育て方、そして建物の建設に至って、クリスは勇者であるが、生きていくのに欠かせない、様々な知識を持っており、その知識を村人達に広めた。
襲撃の傷跡が今でも生々しく残っている、あの朽ち果てかけた村が、復興に成功したのは、クリスの存在があったからと言っても過言ではない。
彼はロザリー村が襲撃された日、救助隊として構成されたメンバーの1人でもある。
この村の復興支援は、嘗て自分が救えなかった村人達に対しての、罪滅ぼしなのかもしれない。
村が安定し始めると、カイル、シオン、ドレッド、エレナの4人は、クリスから剣術を教わった。
クリスの剣術は、魔王に深い傷を残した事で有名であり、討伐までとは行かなかったが、それは英雄伝として語られている。
そして、クリス仕込みの剣術を授かったカイル達は、独り立ち出来る程に強くなると、冒険者となる事を誓い、旅に出た。
今度は自分達が世界を救う番だと、誇りを持って。
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