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「う゛あ゛あ゛ー!」
落雷がカイルの近くに落ちると同時に、それを受け止めた木は、木っ端微塵に破壊され、その衝撃で彼は吹っ飛ばされる。
地面に激突すると、その反動で身体は転がり、最終的に仰向けとなり、呼吸もまともに出来ないくらいの豪雨を全身に浴びた。
(こりゃあ、金属製の鎧を装備していたら、俺に直撃してたのかもな、雷は金属に向かうと聞いているし………兄さんを連れて来なくて正解だったぜ)
そして立ち上がろうと身体を起こそうとした時、何者かに思い切り顔面を殴られた。
俺が1人勝手に単独行動に出たせいで、エレナがブチギレて俺の後を追い、そしてたった今、彼女から渾身の一撃をお見舞いされたのかとも思ったが、人間業を超えている威力から察するに、これは明らかに違う。
殴られた身体は再び吹っ飛ばされる。
空中で何度も回転する中、俺は一瞬、襲撃者の姿を捉える事が出来た。
(あいつは………グリズリー)
森の生態系の頂点に君臨すると言ってもいい。
それに奴の腕には、血が染み込んだボロボロの布のような物が包まっている。
人間でも襲ったのだろうか………。
だがその布は、何処かで見た事のある色と模様をしている。
─────ドクンッ
「う゛っ!……」
鼓動が一瞬高鳴り、頭を抑えフラつきながら立ち上がると、過去の記憶が頭の中を過ぎった。
(あれ……あの布……)
───ドクンッ───ドクンッ………
彼女の姿を思い浮かべると、鼓動が徐々に早くなっていく。
(……あの布って、確か……)
─────ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!ドクンッ!
「嘘だ……嘘だ!、そんなあ!……そんなことって!」
俺は頭を両手で抱え、恐怖に震え始める。
そして唾を飲み込むと、ゆっくりと顔を上げ、もう一度グリズリーを見る。
やっぱりだ……やっぱりそう見えてしまう。
あの布切れはシオンが着ていた物だ。
「このくそ野郎おおお!、シオンを殺りやがったな!てめええ゛え゛!」
怒り狂った震えた大声を聞き、グリズリーは俺目掛けて走り出した。
それに対して俺も、涙目のまま怒りと悲しみの為に震え続ける身体をなんとか動かし、鞘から剣を引き抜く。
もう召喚術は間に合わない。
軽装の防具とロングソードだけで戦う相手ではない事はわかっている。
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