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お金がない
今年で26歳になる健二はつい三日前、付き合って半年になる彼女の美里にフラれた。
デートの最中に突然別れ話を切り出され、訳の分からない健二が理由を聞くと、美里は『健二くんは私のことをあまり大事に想ってくれてないから。』と言われた。続けて『だから今日で別れたいの。いままでありがとう。さようなら』の言葉が発せられ、美里は健二のもとから去ってしまった。
健二は見た目も悪くなく、優しそうな雰囲気も醸し出ていて、過去に女性と付き合った経験は何度もある。
しかし、付き合ってしばらくすると、美里だけでなく、歴代の彼女はみんな同じような理由をいって健二の元を去っていってしまう。
『私のことをそんなに好きじゃないみたい』
『愛が感じられない。』
『私をちゃんと想ってくれてないみたい』
女性たちはそう言うが、健二はちゃんと彼女たちが好きだったし、仕事が休みの日に疲れていてもデートの誘いを断らなかったり、女の長い買い物にも文句を言わず付き合ったりとそれなりに気を使ってきたつもりだ。
愛がないと言われる理由はないと思う。
ただ、一つ心当たりがあるとすれば貧乏だ。
安月給で日々の生活をやりくりするため、お金に余裕はなく、女性が好きなおしゃれなフレンチレストランなどとても連れていけないし、誕生日に高価なアクセサリーをプレゼントすることもできない。リッチなラブホテルを予約してロマンチックな夜を過ごす余裕もなかった。
食事はチェーンのレストランか居酒屋が多く、半分とは言わないまでも彼女にも2.3割支払ってもらったり、エッチはいつも健二の安くて狭いアパートか一人暮らしであれば彼女の部屋。
奮発してたまにいくラブホもベッドやお風呂など最低限の設備が整っているだけの建物だ。
そんな庶民的なデートに彼女たちはみんな嫌気が差していったんじゃないだろうか。
美里にフラレたキズがまだ癒えず、健二はもんもんと考える。
『俺にもっとお金があったらなぁ。』
『金持ちになりてぇなあ。』
学生時代からの友人の浩二は健二と違い、父親が社長という裕福な家庭で育ち、いまはいずれ会社を次ぐため、父親の会社に入社した。
金持ちな浩二に綺麗な女性が何人も積極的にアプローチをしている様子を健二は何度もみかけている。
『くそう。浩二。羨ましい!!』
『俺も金持ちになりたい!!』
気のすむまで叫んだ健二は我にかえって
自分の住む賃貸アパートの古くて狭い部屋を見て深いため息をついた。
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