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 村の結婚は、都よりも歳若くして()ることが多かった。  だから、私とイルハインの結婚も問題なく、多くの人々に祝福された。  彼の家族は、誰も私が吸血鬼だとは気付いていなかった。  私は人間のように暮らし、人間のように勤め、人間のように生きていた。時折湧き起こる吸血の衝動は、イルハインの腕に抱かれると、不思議と耐えることができた。やはり私の吸血鬼の血は薄いのだろう。  そうして十六歳の時、娘を産んだ。  嬉しかった。  しかし、娘の口元に、異様に早く生えてきた歯が、明らかに吸血鬼の牙であったのを見た時。  私は、言い知れぬ恐怖と不安を覚えていた。    その娘が三歳になったある日。娘は、お気に入りだった赤い靴を片方失くした。 「マァマ、お靴がない」 「ないわけがないでしょう、カーミル。ちゃんと探したの?」  今思い返しても、この時の私は、日々鋭く尖っていく娘の牙におののき、心無い言葉を浴びせたと思う。  果たしてこの子ーーカーミルは、どのように育つのか。吸血鬼としての本能を制御し、人の営みと共に暮らしていくことができるのか?  そうではなかった場合ーー私はどうしたらいいのだろうと、常に不安に苛まれていた。幸せの先に、こんな恐怖が待っているとは想像していなかったのだ。  カーミルはびくりと体を震わせると、教会に隣接した私たちの家から、庭の方へ出ていった。  私は自分の態度を反省しながら、娘の靴を探した。  ほどなく、靴は本棚の脇に落ちていたのを見つけた。  私はそれを拾うと、庭へ出た。 「カーミル、さっきはごめんなさい。ママが悪かったわ。仲直りをしましょう。どこにいるの」  そう呼びかけ、娘を探して裏庭へ向かって、私はカーミルの後ろ姿を見つけた。
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