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 私が十四歳の春。ある晴れた日、村外れの風車小屋の裏でのことだった。  幼馴染の少年ーー十六歳のイルハインが、私に向かって言った。 「アリスエラ。僕と結婚して欲しい」  その金髪と青い瞳に、眩しいくらい陽の光が映えていたのを覚えている。 「いや、無理かな。それは」  けれど私は、素っ気なくそう答えた。 「若過ぎる、と思っているのか?」  私の、少し青みがかった銀髪が丘を巻いてきた風に揺れた。 「そういうわけじゃなくて……それもあるけど」  私は、両手に抱えていた野良犬の死体を地面に下ろした。すっかり血を失って干からびた体を、土色の毛並みが覆っている。  私の正面に立つイルハインの向こうには、丘の下に、彼の実家である教会の屋根が見えた。 「私は吸血鬼で、あなたは教会の祓い師の家系じゃない。今、私が素手でこの野良犬を打ち伏せて、血を吸って殺したのを見ていたでしょう」 「おかしいとは思っていた。夜にばかり出歩くし、こういう晴れた日の昼間は日陰ばかり選んで歩くし。……君の家の周りにはよく野良犬がうろついているけど、なぜか数日とせず一匹ずつ姿を消すしね」 「村の皆、いい人だもの。人の血なんて吸えないわ。犬なら私の一族の眷属だから、いくらでも呼び寄せられるの」 「もう君しか残っていない一族か」  私は息を飲んだ。彼は、私が思った以上に私のことを知っている。  私の家は、幼い頃に両親が出ていって以来、私しか棲む者はいない。吸血鬼としての血が薄いらしい私は、昼間にもある程度動き回れるし、教会の手伝いをして日銭を稼ぐこともできた。そうして、これまで生きてきた。  私は、嘆息してから告げた。 「吸血鬼は、そうと知られれば胸に杭を打たれて殺される。結婚なんてしたら、あなたも巻き添えになるのよ」 「もう一度言う。君が好きだ。結婚して欲しい。吸血鬼でも、いや、だからこそ君を幸せにしたい」 「……血を吸われてもいいの?」 「吸わなくてはいられないのか?」 「血がないと死んでしまうわけではないわ。ただ、衝動なのよ。どうしても我慢ができなくなれば、見境をなくすかもしれない。いえ、きっとそうなるわね」 「構わない。いや、そうならないように共にある」  まっすぐな瞳。  未熟な私は、孤独に慣れることはできても、思いがけない幸せに抗うことができなかった。  私だって、ずっとイルハインと結ばれることを夢見ていた。
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