彼の彼女はヴァイオリン

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 数日後の放課後。  私は足音を忍ばせて、ヴァイオリンの音がする教室のドアに歩み寄った。  弾いてるのはきっと『だいちゅう』だろう。  弾いてるのはこの間と同じ曲で、今日もよく音が外れてる。  いつも教室で弾いてるんじゃないかと思ったら、やっぱりだ。  ここ何日も友達と一度家に帰ってからわざわざ学校に戻って来てた甲斐があった。  できれば学校で待ってたかったけど、私にも付き合いってものがある。  あんまり輪から外れてると、友達を失くすかも知れなかった。  『だいちゅう』みたいにはなりたくない。    それなのに何でこんなことしてるんだろう。    今更だけど、そんな考えが頭を過った。    よく考えてみれば、こんなことしてもいいことなんて何もない。  それどころかトラブルの元にしかならないだろう。  『だいちゅう』なんかに関わってるってみんなにバレたら、きっと変な目で見られるだろうし、『だいちゅう』と噂になったりもするかも知れない。  考えるだけでぞっとする。    でもあんな態度を取られると、無理にでも『だいちゅう』に一曲弾かせないと気が済まなかった。  やられたらやり返すのがケンカの基本だ。  『だいちゅう』はそんなつもりじゃなかったのかも知れないけど、とにかく私はムカついた。  絶対ギャフンと言わせてやる。    私がドアを一気に開けると、ヴァイオリンの音が止んだ。  薄暗い教室の中で、『だいちゅう』がびっくりした顔をしてるのが面白い。 「やーっぱりまた弾いてたんだ」  にやりとする私を見て、窓際の机に腰掛けた『だいちゅう』はあからさまにむっとした顔になった。  私から視線を外すと、ヴァイオリンを静かに下ろして言う。 「何しに来たんだよ」 「一曲聞きに来たの。まだ弾いてくれてないでしょ。わざわざ来たんだから、今日はちゃんと弾いてよね」 「俺は弾くなんて言ってねえ。邪魔すんな」 「そんなに邪魔されたくないんだったら、家で弾けばいいじゃん」 「弾けるもんなら弾いてる。家から近いし、タダだし、ここが一番いいんだ」 「ふーん」  私は気のない声を出した。  『だいちゅう』の家の事情なんかどうでもいい。
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