彼の彼女はヴァイオリン

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 だけどいくら直接話さないからって、あんなことがあった『だいちゅう』に謝りもしないで毎日顔を合わせるのはちょっと気まずい。  おまけに時間が経てば経つ程謝り難くなりそうだった。  でも、一度萎んだ気持ちは簡単には戻らない。  ぐらついた心を定め切れないまま、私はとりあえず自分の机に鞄を下ろした。  いつも通り友達と話してても、気になってドアが開く度につい見てしまう。  『だいちゅう』はなかなか来なかった。 「どうしたの? 何かドアの方ばっかり見てるけど」 「ん、何でもないよ」  私は適当に友達をごまかしながら、まだ迷ってた。  でもだんだん先延ばしにする方に気持ちが傾き始める。  やっぱりみんなの目が気になった。  とりあえずその場のノリに任せて、謝れたら謝ろう。  そう決めた時、『だいちゅう』が教室に入ってきた。  誰も挨拶しないし、『だいちゅう』も誰にも挨拶しない。  『だいちゅう』は寂しそうな顔一つせずに教室に入ってくると、自分の席に着いた。    『だいちゅう』の周りだけ、バリアができてるみたいに人がいない。  やっぱり友達はいないみたいだ。  それからも時々『だいちゅう』を目で追ってたけど、『だいちゅう』はいつ見ても一人だった。
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