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「今日の花は…ええ、カモミールね。花言葉はなんだったかしら……。」
しばらく花を愛でていた女は、一度それを机に戻して棚をいじり始めた。ほどなくして取り出したのは、最早角の擦りきれた分厚い本だ。
「花言葉は…逆境に耐える、逆境で生まれる力。あらまぁ、素敵な花言葉だわ。」
女は幸せそうに笑い、もう一度花に視線を戻した。
女は元々、花屋の店長だったらしい。
夫婦で経営していたその店はそこまで繁盛していなかったが、常連や近所の住民たちからはこよなく愛されていた。
しかし5年前、旦那が心臓を悪くして亡くなった。その後も妻は旦那との思い出である花屋経営を続けていたが、数ヵ月前に倒れて病院の世話になることとなった。医者が言うには、旦那と同じく心臓を悪くしたのだとか。
女があらかた花を愛でて満足した頃、トントンと控えめにノックされた。看護師か。
「芦原さーん、失礼しますねー。お昼ご飯お持ちしましたー。」
「あらまぁ、すみませんねぇ。」
「いいえ。あ、今日もお花届いたんですね。見たことあるけど、なんて花です?」
「カモミールです。可愛いでしょう?」
「芦原さんは全部の花を可愛いって言うじゃないですか~。はい、配膳完了です!」
ありがとう、と微笑んで、看護師を見送る。あの看護師は元気で良い。女も元気になるからな。
女は配膳された食事をちまちまと食べ、大半を残して箸を置いた。食欲は元気では回復しないようだ。
「ごちそうさま。それにしてもこの花、本当に誰が届けてくれるのかしら……。」
もう一度花に視線を向けると、女はまた嬉しそうに微笑んだ。
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