地下室にて

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わたしは彼女の冷えた皮膚を再度確かめた。 「えっ... あ...あなたは...誰です... どうやって来たの?」 彼女は泣き腫らした虚ろな目をわたしに向けながら力なく呟いた。 わたしは突然の出来事で何を言えばいいのか、どう説明すれば良いのか分からず黙りこくってしまった。 とにかく無言のまま彼女に毛布を掛け男が言っていた浴室を探した。 すると彼女が立ち上がりフラフラと歩きながら、わたしの肩につかまった。 彼女の軽い手の重さを感じ、また男への憎悪が募った。 「こっちです。」 彼女が指差した小さな扉を開けるとトイレの先にシャワールームと小さな浴槽があった。 「1人で大丈夫?」 わたしはシャワーの温度を確かめながら初めて言葉を発した。 「うん...ありがと。」 一瞬彼女の顔に紅みが射したように見えた。 わたしは扉を閉めると、この部屋の現実に引き戻された。 「どうしよう...この部屋から出なきゃ。 きっと今だったらあの男にわたしの事も見えちゃうし。 わたしも捕まる...」 何か武器になるような物を探したが棒っきれ1つなかったし、多分ここは何処かの地下室だと思った。 彼女がずぶ濡れの全裸で出て来た。 椅子に掛けてあったタオルで身体をぎこちなく拭き始めたので、わたしは背中を拭いてあげた。 痩せているように見えていたがそれ程でもなく綺麗なバストでバランスの取れた身体だった。 「あなたの事聞いていいかな?」 わたしは彼女に尋ねた。 「ええ... でも思い出せないの... あの人がミヨさんって言ってるから名前はそうなのかな?って... それくらいしかわからないの。 それにお腹に赤ちゃんがいる事だけは感じてて分かってたけど... 守れなかった...」 食いしばった唇は彼女に似合わない憎悪に満ちていた。
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