悠木美代

3/3
前へ
/36ページ
次へ
大学受験の頃になると事件の事は忘れて普段の美代に戻ったように振る舞っていたが心の傷は深く当然トラウマになっていた。 どれほど人通りが多くても夜道は避けるようになっていた。 しかし助けてくれたあの金髪の女性の凛々(りり)しい顔は(おぼろ)げながら何度となく思い出しては心の支えにもなった。 強姦未遂事件を起こした被告の大手芸能プロのスカウトマン武 堅治(たけ けんじ)は実刑判決を受け刑務所に収監された。もちろん失職し家庭も崩壊した。 兄の純次は事件のあとも美代の事は人一倍気にかけていつも相談事に乗った。彼は料理の専門学校を出た後『ユウキサラヤ』浅草本店で修業していたが3年後には銀座に店を出し任される予定になっていてその準備も始めていた。 春になり第1希望の国立大学に合格して大学生になった美代はいよいよ美しさに磨きがかかり芸能関係者のスカウトは後を絶たなかった。 しかしほとんど興味を示さず大学に通い始めると『ユウキサラヤ』でアルバイトを始めた。 そこで兄の後輩で料理人の栗野政人と出会った。政人は美代より5歳年上で若いながら真面目を絵に書いたような堅物の義理堅い所謂 職人気質の信頼できる人物だった。 美代は店休日になると兄や栗野と3人で映画に行ったり食事をしたりして遊んでいたが、いつの間にか政人と2人で出かけるようになり自然と付き合いが始まって行った。彼女は柔和で明るく活動的で彼は寡黙だったが美代の前ではいつもニコニコとしていて笑顔が絶えなかった。 政人の家は両国にあり両親は近くで居酒屋をやっていた。 美代が20歳を過ぎるとその居酒屋で食事をしたり大学の友人と飲みに行ったりして政人の両親とも親密になっていった。 21歳の時、政人の家で初めて身体を合わせたが2人とも初めてで美代は激しく痛がり政人はオロオロとして射精せずに終ったため散々な初体験だった。 それから暫くセックスは出来ないでいたが、ある夜お互いを求め濃厚に濡れ合い深く激しく交わった。美代は初めて何度となく快楽を知り、それからは会うたびにセックスをしてお互いの身も心も深く愛し合うようになった。 その頃も芸能関係者は頻繁に『ユウキサラヤ』へ挨拶に来ていたが、ある日美代本人が、 ”結婚するつもりなのでもう来ないでくれるように” と宣言してしまった。 スカウトマン達も店のスタッフも家族も突然の事で色を失ったが本人はスッキリした顔で微笑みを残した。 2人は美代の卒業を待って結婚した。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加