失踪

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失踪

結婚しても美代は働きたいと思っていたが政人はそれを許さなかった。 家庭に入り子供を産んで育てて歳を重ねていく事に美代は不安を感じていた。当時の結婚後の女性はそれが一般的だったし男性もそれを求めていたので疑問の余地はあまりない世の中だった。 政人は十分過ぎる程の稼ぎがあったが美代はそれでも働きたいと思い『ユウキサラヤ』で働き始めたが本当は英語力を活かした旅行会社とか貿易関係で働きたかったようだった。 それでも政人との生活は幸せで仲睦まじくお互いを支え合って暮らした。 結婚して1年が過ぎた頃に美代は再び大事件に巻き込まれてしまい失踪した。 当時はまだ携帯電話はなく家置きの電話しかないような時代だった。 その日美代は体調が芳しくなく少し遅れて出勤すると政人に伝えていた。 開店すると忙しくて政人は家に連絡出来ずにいたが、やっと一段落ついたのは午後3時頃になり電話したが美代は出なかった。 兄の純次がお粥を作り政人に持たせたのが午後5時を回った頃で、家まで自転車で5分程で着く距離だった。 政人が家に着いてみると部屋の中はめちゃくちゃに荒されていて美代の姿はなかった。政人は直ぐに警察に電話しようとしたが線を切られていた。 近くの公衆電話から警察に連絡して店にも知らせた。 慌ただしく時間が過ぎ現場検証から現金と不思議な事にアルバムが無くなっていた。 当初は多くの情報や容疑者が調べられたが犯人逮捕に行き着く事はなかった。それから兄の純次や政人は長い間 様々な手を尽くして探し回ったが結局20数年経った今でも手掛かりもなく美代は失われたままだった。 その日 美代は少し熱があり気分が優れなかったし、最近は匂いに敏感で食欲もなかった。彼女はお腹に命が宿っている事を予感していた。 お昼過ぎに起きてお店に行こうと準備していると呼び鈴が鳴った。 政人が帰って来たと思いドアを開けると知らない男が立っていた。 「どちら様?」 と美代が聞くのと同時に男は彼女を抱き抱えてそのまま床に叩きつけた。 美代は声を上げたが叩きつけられた音と衝撃に掻き消されショック状態のまま意識も遠のいて行った。 そしてその男は小さな注射器の針を美代の腕に刺し入れ完全に彼女の身体を支配した。
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