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実家
桜子は東北から帰るとあの事件以来久しぶりに浅草の実家へ帰った。
サララは仕事の都合で来れなかったがサラサは一緒に付いて来た。
平泉での出来事は3人にとって固唾をのむ事の連続だったが、桜子は昨夜の浜辺の散歩から帰って旅館で起きた過去帰りの内容を2人にはまだ話せないでいた。
それは実家の両親にしっかりと確認してからじゃないと手に負えないと思ったからだ。
その出来事とは・・・。
わたしはお店の前に立ち中をうかがっていた。
すると後ろから声がして、
「お嬢さん、誰かとお待ち合わせですか?
よかったら、入ってお待ち下さいな。
いまは席も空いてますし...」
どこかで見た事がある顔...
間違いなかった...
若い頃の父親だった。
逃げ出したい気持ちと見ていたい気持ち半々のまま店に入った。
レジに立つ父親をチラチラと見ながら多分20代半ば位かなと思った。
震える手でコーヒーを飲み、見慣れた「ユウキサラヤ」の店内を見回しながら一つ一つ子供の頃の事を思い出していた。
店の調度品はピカピカと光り父親も何もかもが輝いて見えた。
「純次さん!」
お店の入口から声がして振り返ると今度は見間違う筈もないわたしの母親が父の名を呼んだ。
若い! しかもわたしに似ている...
まずい! ばれる?
とも思ったがもうどうしようもない。
するとすかさず厨房から声がした。
「いずみさん、いらっしゃい。
今日は早いのね。」
白いエプロンと衛生帽子を被ったサララが厨房から出て来た。
「サララ! ここで何してんの?」
わたしはそう叫びそうになったが辛うじて口に収めた。
理解を超えた過去の真実が目の前で繰り広げられている事について行けずに段々と気分が悪くなって来た。
「お客さん、ご気分が優れないようですが...
大丈夫ですか?」
サララが...いや、多分2人のお母さんが聞いてきた。
わたしはお手洗いに駆け込み鏡の前で自分を確かめながら気持ちを落ち着かせていた。
間違いなくサララ達のお母さんだ。
うちで働いていたんだ。
という事は、ミイさん...
わたしはしっかり確かめなきゃと心に決めお手洗いを出た。
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