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ジリリリリリリリリリリリリ
目覚まし時計のけたたましい音、深い眠りの底にいた私の意識が浮上する。無意識に布団の中から手を伸ばし目覚まし時計に向かって手をのばす。寸分違わずスイッチを押せるのは習慣のなせるワザ。大人しくなった目覚まし時計に背中を向けて、さらに布団の中に潜り込む。もう決して時計の音に煩わされなくてすむようにと丸くなった。
ピピピピピピピピピピピピピピ
今度は少し遠くでデジタル時計の音がする。むっくりと起き上がった私はそうっと足をのばして、スイッチをぱちんと切る。毎朝特訓しているせいか、これも無意識ですべて行う。大人しくなった時計ににんまりと笑って、もう一度布団の中で丸くなる。今日は土曜日、職場に行く用もなく、朝早く起きて出かける予定もないのだ。ゆっくり寝かせてけろ。
やわらかい羽根布団はボーナスを使って一括で買ったもの。おかげでやわらかく軽く、あったかい。今度は自分に合った枕も買うつもりなのだ。パジャマに寝具、安いものならいくらでもあるけれど、こうして質の良いモノを使うと手放せなくなってしまう。人間、贅沢に慣れたらいかんね。さて、ぐっすり休日の朝を過ごそうと思って、羽根布団にほおずりした私に耳に甘く低い声が届いた。
「さあ、朝だよ。早く起きて」
「いやよ。今日は休みなんだもの。もっと寝てる」
「早く起きないと行ってしまうよ。今日こそは必ずって言っていただろ?」
「そんな約束したかしら」
甘い声に答えていた私の目がぱっちりと覚める。慌てて飛び起きて羽根布団を蹴り飛ばすと、ベッドから出てきた。
「さあ、行こう!でないと」
甘くささやくような声に私は叫んだ。
「でないと私の部屋がゴミためになってしまう!」
二つの目覚ましを通り過ぎ、甘い声が流れるスマホの電源を思い切りよく切る。音声はお気に入りのアニメの声優さんの声。アニメやドラマCDの中でも特にお気に入りの音声を選び自分で編集したのだ。目覚まし時計として使えるようにセットした。我ながら良い出来だと思っている。仕事はできないけど。スマホのそばに置いてあるコートをひっつかんだ。顔も洗わず髪の毛だけ軽く整えると、玄関に積まれているゴミ袋に手を伸ばす。
「ゴミ収集車が行ってしまう!」
平日は忙しくてゴミ出しを忘れやすく、休日である土曜日は寝過ごしてゴミ出しを忘れてしまう。おかげたまったゴミ袋が計6個!一人暮らしの女子の部屋にゴミが居座るなんて何てこと!これでは汚部屋住人の烙印を押されてしまう。
ご近所さんとの挨拶もそこそこに二往復。遠くからゴミ収取車の姿が見えて私は慌てる。アパートに二階に部屋があるものだから、階段の昇り降りの手間が惜しい。急いで最後の二つの袋を両手に持つと、すでに回収が終わるところだった。
「待って!お願い!持って行ってください~!」
私のプリティ(必死)なお願いにおじさんは笑うと、私のゴミ袋を受け取ってくれた。普段運動することのない私は、ゴミ袋を持って三往復するだけで息切れがしてしまう。しばらくの間呼吸を整えて家に向かっていく。
コートを放りだし、一人満面の笑みを浮かべる。
「今日は勝ったわ!ゴミ出し!」
勝ち誇ったように微笑んだまま私は、そのままベッドにダイブする。もそもそとやわらかくあたたかい羽根布団の中に潜り込んだ。
運動後の心地よい疲労感は、すぐに私を眠りの世界の住人に迎え入れてくれた。
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