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おぎゃーおぎゃー
分娩室から赤ちゃんの声が聞こえた。
「あっ生まれた!」
妙子が長女の咲子を産んだ瞬間の出来事である。
分娩室から出てきた看護師に、無事に生まれた事を伝えられ、分娩室に入る。
分娩室にはお産を終えて、疲れてきっていながらも満面の笑みを浮かべる妙子の姿があった。
「妙子、良く頑張ったね。」
「私達の子供よ、マコトも抱いてあげて」
タオルケットに包まれた赤ちゃんを看護師から渡される。
赤ちゃんなど抱いたことがない僕は、赤ちゃんを抱く手が震えて、落ち着いて赤ちゃんを見る事など出来なかった。
そんな動揺している僕を見て、妙子は笑いながら
「マコト、手が震えているわ。」
「しょうがないよ。赤ちゃんを抱くのも初めてだし、それに僕達の大事な赤ちゃんに何かあったらと思うと、手の震えが止まらないんだよ」
「もう、これからいっぱい抱くことになるんだから、早く慣れようね」
僕は、震える手で看護師に赤ちゃんを渡した。
そこで夢の風景が変わり
長女が1歳の時だろう
ヨチヨチ歩きする長女を連れて、広く芝生が広がる自然公園に家族3人で出掛けた時の出来事である。
ゴールデンウィークの心地良い日差しを浴びながら、芝生にレジャーシートを敷いて、妙子が作ったお弁当を食べていた時の事である。
まだはっきりと話す事が出来ない娘が妙子に
「かあいい」
まるで「可愛い」と言っている様に聞こえて、妙子も驚く表情をした。
僕はこの驚いた表情をカメラに収めようと、急いでカメラを手に取った。
すると娘は驚いた妙子の顔を見て、大きな口を開けて笑い始めた。
子供の笑顔を見た妙子は、同じ様に大きな口を開けて、満面の笑みを見せた。
僕はその瞬間、大きく口を開けて笑う妙子の顔をカメラに収めた。
画面いっぱいに妙子の笑顔が写った写真である。
こんな笑顔の妙子と一生過ごすのだと信じていたが、この写真がまさか遺影になるなんて思いもしなかった。
夢は葬式へと変わる。
妙子の笑顔の写真が大きく引伸ばされた遺影の前に棺が置いてある。
僕はいきなり変わった光景に驚くが、自然と引き寄せられるように棺に向かって足が進んでいく。
棺の窓から妙子の顔が見える。
「妙子~」
・・・・・・
「どうしたのじゃ」
えっ?
夢かあ
今まで妙子の顔がタタンの顔だったのだが、今見た夢の妙子の顔の目と鼻が霞んでいた。
大きく笑う口だけが、そのまま映し出されていた。
あれ?
でもタタンの顔は思い浮かべられる
どういう事?
「どうしたのじゃ?」
「いえ、地球の記憶がおかしいのです」
「お前の転生先の記憶の事か?」
「はい。人の顔を思い浮かべる事が出来ないのです」
「う~ん。さすがのワシも転生者の事はわからないのじゃ。しかし転生とは関係無いのであれば、アロ・イトナの記憶魔法しか考えられないのじゃ」
「金の糸で作られた服は、僕とクリカ、コサイ、カシムの4人が持っていたが、マワ家4人に使ってしまった。」
「ナケスには呪いは掛かっていなかったから使えるじゃろ?」
「でも、それはモイナの分として残しておきたい。モイナが持って行ったアタッシュケースが無事なのか分からないし、僕が呪いに掛けられていたとしても。地球の記憶の一部分だけだから」
「では、マワ家に作ってもらえばいいのじゃ」
確かに
「そうだね。朝食の時に聞いてみよう」
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