身代わりストラップ

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今は歴史の授業中だ。 恐い年配の先生だから、眠くても眠らないようにしないと……。 眠らないように……。 頭がカクンと落ちた瞬間、バン!!と、間髪入れずに机が響く。 歴史の年配男性教師が、私の机を平手で思い切り叩いたのだ。 「一番前の席で寝るとは、いい度胸をしてるな」 いきなりのことに驚きすぎて、額に冷や汗が滲む。 「徹夜で勉強してるようにも見えないがな」 冷めた口調で放たれた台詞に、なにも言葉が出てこない。 「はい。では、四十二ページの……」 年配男性教師は、何事もなかったかのように授業を続ける。 振り向いてはいないが、教室中が気まずい雰囲気になっているのが分かった。 実際、徹夜で勉強しているわけではない。 ただ、眠れないだけだ。 + 「美織(みおり)、あんた寝不足なの?」 友人の亜紀(あき)が聞いてくる。 凍り付いたような空気からやっと解放され、休み時間になった。 「……うん、最近ちょっと寝付きが悪くて」 わずかに亜紀から目を逸らし、言葉を濁す。 「悩みがあるなら聞くよ!?」 そう言って亜紀は私の背中をバンバンと叩く。 「力入れすぎだから……!」 全力で励ましてくれているのがありがたかった。 「やば。次、選択授業だ」 選択授業……。 それが私の眠りを妨げている原因だ。 急いで準備をして、亜紀は音楽室へ、私は美術室に向かう。 「じゃあ、また後でね!」 そう言って、手を降りながら小走りで駆けていく亜紀を笑顔で見送る。 急いでいる亜紀とは反対に、私の足取りは重い。 美術室に入り、準備を始める。 ああ、もうチャイムが鳴ってしまった。 私も亜紀と同じ、音楽にしておけばよかった。 そうすれば、今のような苦痛や不眠に悩まされる事はなかったのに。
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