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チャイムが鳴って二分ほど過ぎた時、美術室の扉が開く音がした。
私は音がした方向を警戒しながらもデッサンを続ける。
背後に人の気配を感じた。
その直後、太く、ゴツゴツとした手が私の膝に触れた。
「いやぁっ……!!」
立ち上がった勢いで、自分の座っていた椅子がガターンと、大きな音を立てて倒れる。
「おいおい一体どうしたんだ。
みんながビックリするじゃないか」
体を小さく震わせたまま、恐る恐る顔を上げる。
だらしなく太った体に、暑くもないのに吹き出している大量の汗。
大きい顔にニンニクのような鼻。
今、私の膝を触ったのは、この美術教師の金満だ。
私の担任で、不眠の原因だ。
たくさんの視線が一斉にこちらに注目する。
ただ見ているだけ。
誰も何も言ってはくれない。
だから自分で言わなければ。
「こういう事、やめてください」
平静を装ってはいるが、嫌なリズムで動く心臓の鼓動が、そこに当てている自分の手の平に伝わってくる。
「『こういう事』って……こんな事かな!!?」
金満は、私を羽交い締めにするように後ろから抱き付いてきた。
「嫌っ!!本当にやめてよ!!」
「『嫌っ!!本当にやめてよ!!』」
金満は、私の叫んだ言葉をオウム返しするだけで、力を緩める気配がない。
その時、美術室の扉をノックする音が聞こえた。
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