身代わりストラップ

4/22
前へ
/391ページ
次へ
チャイムが鳴って二分ほど過ぎた時、美術室の扉が開く音がした。 私は音がした方向を警戒しながらもデッサンを続ける。 背後に人の気配を感じた。 その直後、太く、ゴツゴツとした手が私の膝に触れた。 「いやぁっ……!!」 立ち上がった勢いで、自分の座っていた椅子がガターンと、大きな音を立てて倒れる。 「おいおい一体どうしたんだ。 みんながビックリするじゃないか」 体を小さく震わせたまま、恐る恐る顔を上げる。 だらしなく太った体に、暑くもないのに吹き出している大量の汗。 大きい顔にニンニクのような鼻。 今、私の膝を触ったのは、この美術教師の金満(かなみつ)だ。 私の担任で、不眠の原因だ。 たくさんの視線が一斉にこちらに注目する。 ただ見ているだけ。 誰も何も言ってはくれない。 だから自分で言わなければ。 「こういう事、やめてください」 平静を装ってはいるが、嫌なリズムで動く心臓の鼓動が、そこに当てている自分の手の平に伝わってくる。 「『こういう事』って……こんな事かな!!?」 金満は、私を羽交(はが)()めにするように後ろから抱き付いてきた。 「嫌っ!!本当にやめてよ!!」 「『嫌っ!!本当にやめてよ!!』」 金満は、私の叫んだ言葉をオウム返しするだけで、力を緩める気配がない。 その時、美術室の扉をノックする音が聞こえた。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!

252人が本棚に入れています
本棚に追加