覗き窓の桜【短編】

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「何とか耐えた。マジ眠かったわ」  俺は知らん顔して、クローゼットから着替えを出して着る。宵闇からこれを着ろ、って宛てがわれてからずっと着てるワンピースのスウェット。宵闇と柄違い。俺、全然ワンピース知らねぇけど。  テーブルに戻って、置いてあったタバコをくわえる。 「ん? 寿司? …と、唐揚げと…?」 「卵焼きもあるよ」 「遠足か」 「あ、タコさんウィンナーとか作れば良かった?」  赤いウィンナーにちまちま切り込み入れてる宵闇を想像すると、ちょっと可愛い。やりそうだし。 「いらねぇよ」  笑ってそう言ってやると、宵闇も笑う。疲れ吹っ飛ぶな。  付き合う前はこんだけ疲れて帰って来ると、床でそのまんま寝てたけど。こいつと会うと疲れが癒される。こいつが俺の顔見ると嬉しそうな顔するからさ、それ見てると力抜けるわ。 「寿司あんのにピザもあんのかよ」 「冷凍だけどな」  掌サイズの小さいピザ。その隣にはフライドポテト。  今日はえらく盛り沢山だな。  三色団子と桜餅まであるじゃねぇか。 「何か変な晩飯だな」 「晩飯っていうか…」  宵闇は冷蔵庫に立って行って、ビールのロング缶を2本持って戻って来る。  それをとん、と置いた前には、タブレットが立ててある。 「何でタブレットだ?」 「花見しよう」 「花見?」  外出禁止令が敷かれた厳戒態勢の東京。バカみてぇなコロナウィルスのせいで、ライブは中止だし、ろくに出かけられもしねぇ。  車移動だから、どうにかこうにかリハには行ってるけど、流石に俺も体が資本だからな。それ以外は、ここか俺んちかでこいつと大人しくしてる。  そういやこの間、ぱーっと花見でもして酒呑みてぇな、って俺言ったな。確かに言った。 「ほら、ビール」  宵闇はビールを取って、俺に渡してくれる。 「俺も、夕と花見行きたかったんだけど、このご時世だから」  そうだよな、この時期鉄板だもんな、花見デート。こいつはそういう定番みてぇなのが好きだ。  受け取ったビールを見ると、ヱビスだ。最高じゃねぇか。  ヤツは自分の分のお茶を開けてる。俺もプルタブを引く。 「あ、桜、桜」 「ああ、桜ねぇと花見じゃねぇよな」  これじゃただの呑み会だ。宵闇は手を伸ばして、タブレットを起動させる。  画面に映ったのは夜桜だ。真ん中に三角が出てる。ヤツがそれをタップすると、夜桜が風に揺れ始めた。 「お、何だこれ」
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