3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「何とか耐えた。マジ眠かったわ」
俺は知らん顔して、クローゼットから着替えを出して着る。宵闇からこれを着ろ、って宛てがわれてからずっと着てるワンピースのスウェット。宵闇と柄違い。俺、全然ワンピース知らねぇけど。
テーブルに戻って、置いてあったタバコをくわえる。
「ん? 寿司? …と、唐揚げと…?」
「卵焼きもあるよ」
「遠足か」
「あ、タコさんウィンナーとか作れば良かった?」
赤いウィンナーにちまちま切り込み入れてる宵闇を想像すると、ちょっと可愛い。やりそうだし。
「いらねぇよ」
笑ってそう言ってやると、宵闇も笑う。疲れ吹っ飛ぶな。
付き合う前はこんだけ疲れて帰って来ると、床でそのまんま寝てたけど。こいつと会うと疲れが癒される。こいつが俺の顔見ると嬉しそうな顔するからさ、それ見てると力抜けるわ。
「寿司あんのにピザもあんのかよ」
「冷凍だけどな」
掌サイズの小さいピザ。その隣にはフライドポテト。
今日はえらく盛り沢山だな。
三色団子と桜餅まであるじゃねぇか。
「何か変な晩飯だな」
「晩飯っていうか…」
宵闇は冷蔵庫に立って行って、ビールのロング缶を2本持って戻って来る。
それをとん、と置いた前には、タブレットが立ててある。
「何でタブレットだ?」
「花見しよう」
「花見?」
外出禁止令が敷かれた厳戒態勢の東京。バカみてぇなコロナウィルスのせいで、ライブは中止だし、ろくに出かけられもしねぇ。
車移動だから、どうにかこうにかリハには行ってるけど、流石に俺も体が資本だからな。それ以外は、ここか俺んちかでこいつと大人しくしてる。
そういやこの間、ぱーっと花見でもして酒呑みてぇな、って俺言ったな。確かに言った。
「ほら、ビール」
宵闇はビールを取って、俺に渡してくれる。
「俺も、夕と花見行きたかったんだけど、このご時世だから」
そうだよな、この時期鉄板だもんな、花見デート。こいつはそういう定番みてぇなのが好きだ。
受け取ったビールを見ると、ヱビスだ。最高じゃねぇか。
ヤツは自分の分のお茶を開けてる。俺もプルタブを引く。
「あ、桜、桜」
「ああ、桜ねぇと花見じゃねぇよな」
これじゃただの呑み会だ。宵闇は手を伸ばして、タブレットを起動させる。
画面に映ったのは夜桜だ。真ん中に三角が出てる。ヤツがそれをタップすると、夜桜が風に揺れ始めた。
「お、何だこれ」
最初のコメントを投稿しよう!