1/13
前へ
/104ページ
次へ

 ため息を交え、その男子は独りつぶやく。 「もう夏も終わりか……」  物憂げで、どこか気怠るげな陰翳のある、学生服姿の彼。  清潔に着こなされた黒い詰襟が、彼のメランコリックな空気をより一層、何か曰くありげに感じさせる。  無気力風に頬杖をつく彼の目が注視するのは、窓の外の一点だ。  プロムナードに等間隔に立つポプラの幹を捉えたまま、その灰色に怠惰な視線は微動だにしない。  九月一日、始業式。  この日を境に長い夏休みは終わり、再び学校が始まる。  彼も自分の教室である二階の一室にいた。  しかしすでに式典は終わり、大半の生徒は帰路についてしまった後だ。  冷たい造りの殺風景な教室は閑散としていて、もう生徒の影はほとんど見えない。  無気力な空気を装う彼の視線が、何かを追うように、ゆっくりと下へと動いた。  それと同時に、少年の声が彼の背中に飛んできた。  「どうしたんだよ。何見てんだ?」  だが窓の外を見つめ続ける彼に、反応する気配はない。    声を掛けてきたのは、肘までたくし上げられた袖と、何か含みのある黒い目が印象的な、一人の男子だ。  金色のボタンも全部外していて、学生服のあわいから覗く開襟シャツの白が眩しい。  座ったままの彼と比べると、不良、とまではいかないものの、ちょっとはねかえった印象が、ちょっとした仕草の端々に漂う。  容姿はまずまずだが、背丈はいまいちのようだ。  どことなく悪戯なその十七、八才の生徒は、相手がぼんやりとして答えないのを見て取り、もう一度声をかけた。  「おい、華岡。華岡愁二」
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加