勘のいい友人

5/8
前へ
/13ページ
次へ
 久志が達也と出会ったのは小学五年生の時だ。  エリアによっては池や広場、集合墓地もあり、春にはお花見に来る人々で賑わう、市内ではわりと広大な公園でのことだった。そこは自然も豊かで、木々や草花が生い茂る中を散策できるウォーキングコースもあり、そこへの入口は久志の家のすぐ近くにあった。  週に三回は塾に通っており友達と遊んだりするにしてもほぼ屋内であった久志には、小学校の校外学習や花見の時以外縁のない場所だったが、その時は一人黙々と公園内に足を踏み入れた。そして歩きやすく整備されたウォーキングコースからあえて逸れ、木々が乱雑に生い茂る道なき道を突き進んだ。緩やかな斜面になっており、所々木の根が盛り上がっていたりとでこぼこしていて歩きにくかったが構わず、行く宛てもないまま久志は歩き続けた。  今の自分の姿を誰にも見られたくなかった。一人になりたかったのだ。  涙が止めどなく目から溢れ、頬を伝い流れ落ちる。拭っても拭っても溢れ続けるその雫をどうにかすることを久志はとうの昔に諦めていたため、酷い顔をしているに違いない。  きっかけは些細なことだった。小学校の飼育小屋で飼われていたうさぎが死んだ。一羽。名前はうさ次郎。飼育小屋では全部で五羽のうさぎが飼われており、そのうちの一羽だった。  何か事件性があったわけはない。病死したのだ。寿命もあったのだろう。  うさぎは五年生が当番制で世話をしており、またうさ次郎は久志達の代が入学したのとほぼ同時期に飼われ始めたため、同学年の大半は悲しみに暮れていた。  それは久志のクラスにおいても同様で、教室内は悲しみに包まれていた。久志はそんなクラスメイト達に対して思ったことをそのまま口にした。いや、口にしてしまった。 「代わりのうさぎなんてまだたくさんいるだろう」  五羽もいたうさぎのうち一羽だけ死んでしまったのだ。まだ残り四羽もいる。うさ次郎も他の四羽も全て同じ品種だった。他の四羽を同じように可愛がればいいのに、クラスメイト達は何をそんなにも悲しんでいるのだろう? 久志としてはそんな純粋な疑問も含んでの発言だった。  しかしその発言に対し、誰も彼もが久志を非難した。 「うさ次郎は一羽だけなんだよ。かけがえのない命だったんだよ」 「みんなで飼っていたうさ次郎が死んじゃったのに、何とも思わないのかよ」 「頭おかしいんじゃねーの」 「普通はそんなこと言わない」 「冷たい奴。人としての心がないんだよ、きっと」  等々直接言われたり陰で口々に話されたりした。まるで異物を見るような冷たい眼差しを皆、久志に向けてきた。そして、やがて誰もが久志のことを無視し始めた。他の人間と違って情がない、共感性が欠如していた久志を排除することは五年四組のクラスにおいては正義だった。  仲間はずれ。独り。誰からも相手にされない。皆が久志を嘲笑う。  そのことを悲しいと思ったわけではない。ただ、悔しかった。しかしだからと言ってどうして泣けてくるのかはわからない。自分自身のことが久志にはまるでわからなかった。  煮え切らない胸中をどうにかしたくて闇雲に歩いていた久志はふと視界に飛び込んできた人工物に足を止めた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加