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「遠野。私と付き合ってくれないか?」
そう教室ぐらいの広さしかない狭い図書室で、二人で図書委員としてカウンター業務に勤しんでいた中、久志に告白してきた永倉喜美枝の態度はどこまでも不遜で可愛げがなかった。
「どこへ?」
明らかに告白する者の態度ではないと思った久志は、彼女の意図がわかっていながらもとぼけてみせた。
「そういう意味ではない。私と恋愛関係になって欲しい」
喜美枝は眉一つ潜めずに真顔のままそう言った。
「それは僕に好意を抱いているって捉えていいのかな?」
「そう捉えてもらって構わない」
「永倉さんが僕みたいな人間を好くなんて意外だな」
他の女の子達と違い、喜美枝はいつだって冷ややかな目でこちらを見ていたのである。今も可愛げだとか好意的な愛らしい雰囲気は一ミリも感じられない。
「お前は私に似ている。普通じゃない。異質な存在だ」
喜美枝は見透かすような眼差しを向けたままにこりともせずに言った。
「僕は永倉さんのように浮いてはいないんだけど」
冷ややかかつ決め付けるかのような物言いが不快で、もっと当たり障りない返答はいくらでもできたのにも関わらず、久志は自分の発言につい毒を滲ましてしまった。
「お前が周囲から浮いていないのは仮面を被っているからだ。仮面だ。表面上取り繕ってるだけだ。お前の本質は違う」
「……いいよ。付き合おう」
いつも浮かべているにこやかな人好きのする表情を消し、無感動に久志は言った。嫌悪感があるものの、久志の本質を突いてきた異性は喜美枝が初めてで、その点に関してだけは特別な何かを彼は感じていた。
だから久志は彼女の告白を受け入れたのだった。
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