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“大丈夫だよ。まだ永倉さんが死んだという事実は受け入れられないけど、こうしてみんなとやり取りぐらいはできるよ”
元カノを亡くしたという立ち位置の人間として当たり障りないと思われる文面を久志は打ち出し送信した。おそらく普通の常識的な人々は久志と同じ立場になった時、悲しみに暮れながらも気丈に振る舞おうとするのだろうから。
久志自身は喜美枝の死に何の感慨も抱いていなかった。通常、親しき人間が死んだ際に生じるであろう悲しいという感情が久志には全く湧いてこなかったのだ。涙の一つさえ出てこない。
喜美枝は屋上から転落した。だから久志は教室の窓の外を飛ぶ彼女を目撃した。そして喜美枝は中庭の地面に叩きつけられ死んだ。
喜美枝の最期に対する久志の認識はその程度のものだった。
喜美枝と別れた時から彼女と今後、親密になることは二度とない。そんな確信が久志にはあった。そのように希薄な、いつか完全に縁が切れるであろう人間が死んだところで、それは全く関わらなくなる時間が少し早まっただけに過ぎない。ただ単に二度と彼女と会うことも話すこともできない。それだけのことである。
吹き出しとしてグループトーク上に現れた自分の言葉が久志にはどこまでも白々しく映った。しかし文字に感情は伝わらない。おそらくクラスメイト達には一般的で同情すべき回答として受け取ってもらえるだろう。
“そっか……”
“まあ無理するなよ”
久志の返信に対してそんな言葉達が画面上に並ぶ。パラパラとさらに返信は増えていくが、どれも似たり寄ったりな内容で、久志はそれらを流し読みする。
それと平行して
“何かあったら相談しろよ”
“話だけでも聞くからね”
と個別に久志へトークを飛ばしてくれる友達もまた何人もいた。
それらは全て久志のことを気遣ってのものだった。久志に人望があるからこそ来るもの。
本来ならばこの友人達の優しさと思いやりに感動すべきところなのだが、久志にはそれらがとても重く、また刃物でも突きつけられたかのようなな寒気がし、背筋がぞくりとした。
久志の喜美枝に対する本当の気持ちを知ったら彼らはどんな反応を示すのだろうか?
別れたとはいえかつて恋人であった喜美枝が死んだのにも関わらず悲しくも何とも感じていないという久志の本心を彼らが知ったら。
その時向けられるのは軽蔑か。
四年前のことを――小学五年生の時のことを思い出し、久志は唇をわずかに噛む。
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