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勘のいい友人
パソコンのゲーム画面上には魔女の館から脱出した金髪の少女が銃を持った――おそらく猟師という設定であろう父と再会する場面が映し出されていた。彼女の父親は帰りが遅いから心配して森の中を探していたという旨の話をするテキストが表示される。
しかしそこへ魔女が現れた。館に主人公である金髪の少女を閉じ込めていた魔女である。
紫色の髪の魔女が這いつくばりながら主人公である金髪の少女に迫る。デフォルメのドットなのでわかりづらいが、魔女には引きちぎられているのか足がなく、腕で文字通り這いつくばりながら主人公に迫っていた。魔女が這いつくばった後には血の跡ができていく。また魔女のその眼に瞳はなく暗闇があるのみで、そこから両目ともに血が滴っていた。実際どうであるかはわからないがテキストと共に表示されているキャラ絵の魔女のその目は繰り抜かれてでもいるかのように久志には見えた。
魔女は金髪の少女へ襲いかかろうと迫っていく。少女の父親は彼女を守るため、下がれと言い、彼女をその背に隠す。そして魔女を持っていた猟銃で射殺した……。
「もうトゥルーエンドまで回収しているところかな?」
「いや。トゥルーに必須なアイテムを取れなかったからノーマルエンドさ」
パソコンの前に座り、久志が部屋に入り声を掛けてもゲーム画面を見つめたままの同級生――赤井達也(あかいたつや)は答える。
「ハッピーエンドな感じなのにかい?」
魔女は死に、父親は主人公の少女に家に帰ろうと言い、彼女もそれに頷く。そしてスタッフロールが流れ出し、エンディング画面になった。それは脱出系のフリーホラーゲームのハッピーエンドのお決まりの展開のように久志には見えた。多くのフリーホラーゲームはエンディングが大きく分けて三つ――トゥルーエンド、ノーマルエンド、バッドエンドにアイテムやイベント等のフラグ回収の度合いによって分岐するのだと、実際にプレイしたことはないものの久志は達也から聞いて知っていた。
「この場面だけ見るとな。他のフリーホラーだったら確かにお前の言う通りこれがトゥルーエンドだっただろうさ。けどこのゲームは違うんだよ」
と達也は答えた。
「ということはノーマルエンドなのかな? ハッピーエンドっぽいからバッドエンドではなさそうだけれど。もっと良いエンドがあるってことなのかい?」
基本的に一番ハッピーなエンドがトゥルーエンドに設定されているはずだ。達也のプレイ画面を幾度となく久志は見てきたので間違いない。
「まあお前が言う通り、このエンドはノーマルエンドさ。そしてこのゲームのトゥルーエンドはもっと良いエンドというよりかはトゥルーエンドっていうその名称そのものなんだよ。ネタバレになるから詳しくは話さねーが。気になるなら、自分でプレイして見てくれ」
言葉を濁すような物言いをする達也。彼はどうやらトゥルーエンドも見たことがあるようだ。そしてそれはどうやら奥が深いもののようで、またトゥルーエンドまで回収しているにも関わらず今もまたプレイしているということは彼のこのゲームに対する評価も高いようだ。
「それでお前は一体何しに来たんだよ」
トップ画面に戻ったところで達也はようやく自身の椅子を回し振り返り、久志に問いかけてきた。
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