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「飛び降り自殺したっていう永倉の件か?」
「おや? 勘が鋭いね」
「普通に考えて何の用もなしに臨時休校で自宅待機を命じられてるのに、何の用もなしに俺の家までわざわざ来たりしないだろう」
「純粋に君に会いたくなったっていう可能性は考えないのかい?」
「俺は男だぞ。そういうのは女子にだけ言え! キモいわ」
鳥肌が立つとでも言いたげな素振りを達也は見せた。彼のそんな反応は面白く、つい久志は事ある毎にからかってしまう。
「それで、永倉の件がどうかしたのか?」
「君も知っていると思うけど、彼女は屋上から飛び降りて中庭に落ちて死んだ。屋上にはプールもあるけれど普段は立ち入り禁止だし、屋上への扉には常に鍵がかかっていて、誰も近づかない。だから永倉さんは自殺したって言われている。君はそれに対してどう思う?」
「どうって、お前の言う通りだろう」
「君なら他に何か気づく点があるんじゃないかって思ったんだけど」
達也はこういった事件に関して小説の中の探偵であるかのように勘が鋭い。久志の下駄箱の中に捨てられていたハムスターを巡る騒動の時の彼の推理はそれは鮮やかだった。
「……屋上の鍵は職員室にあるだろう。他の教室の鍵とかと同じく、職員室に入ってすぐのところの壁に鍵専用のスペースがあって、そこに個別にフックで吊されていて誰でも取りに行くことができる。水泳部がプールを使用している時期なんかは、顧問の先生が屋上の鍵の開け閉めを行っていて、けどわりといい加減で開けっぱなしになってることもあるみたいだが、今はまだ四月だ。だから水泳部の奴らやその顧問が屋上に近づくことも、鍵なしに屋上に侵入することも不可能だ。それに屋上の鍵は永倉のスカートのポケットから見つかったんだろう? 永倉が職員室に屋上の鍵を取りに行って屋上の鍵を開け、飛び降りたって考えるのが自然だろう」
「誰かが永倉さんのポケットに何らかの方法で鍵を入れて、屋上から突き落としたかもしれないとかそういう可能性は考えないのかい?」
自殺に見せかけた殺人なんていうのはミステリーでの定番だ。現実もそれと同様かはわからないが、考えるべきなのかもしれないと久志は思っていた。
「そもそもだ。お前、うちの学校の屋上を思い出してみろよ。屋上には誤って転落しないように三メートルぐらいのフェンスがあるだろうが。気軽に人を突き落とせるような作りにはなってねーよ。頑張ってフェンスをよじ登って飛び越えようとしない限り、そもそも転落すること自体不可能だ」
「そこを何らかの方法を用いて永倉さんにフェンスを跳び越えさせたっていう可能性とかはないのかい?」
久志は訊く。ミステリーでは自殺に見せかけるトリックとかがあったりするものだ。
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