肉付きの面

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肉付きの面

同化して、投影して、同調して、反映する 限りなく個の境界線は曖昧で 限りなく己の境界線が重なって 私は「私」になる 肉付きの面を売った店主は 呪われた面だと嗤っていたが 呪と祝は紙一重 どうしようもなく欲したそれは 誰にでもなれる祝をくれた 誰にでもなれない呪を掛けた スタニスラフスキー・システム 肉付きの面は感情を思い出を感触を…… かつての持ち主すべての記憶を掘り起こし、呼び起こし 今の主人が望む様に変えてゆく いかなる姿にも変えてゆく そこに個は存在せず 溶けあって混ざり合って あらたな己が形成される 酔狂だと人は言う 弱きものの末路だと嘲笑う それがどうした だからどうした 生きるための面なのだ 手放したものが愚かと言う者 嗤え哂え笑え これが私のカンガエか 肉付きの面による洗脳か 顔の半分が覆われて 既に曖昧既に末期 だが、それでいい この面だけは 手放せない 私を象る 一部 だ
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