流星のカクテル

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流星のカクテル

月光で編んだショール 星屑で焼いたクッキー 色褪せた思い出の中に消え ゆらり、ゆらりと揺蕩うばかり 主を亡くした銀河の廃駅 切符売り場のみを残して 月のうさぎも消えてしまった 月のうさぎはなぜ消えたのです? あれは科学が殺してしまった。えぇ、殺してしまいました。   銀河の列車はいまはいずこに?  とうの昔に回収されてね 乗客はどうなったのです?  あれは科学が連れ去ってしまった。えぇ、連れ去ってしまいました。 無常に過ぎる時を眺めて 寂しさを湛えた眼前に 差し出された流星のカクテル 笑みを浮かべて見つめる翁 うまいだろう?  あぁ、うまい。流星がぴりりと残りいい味だ 夜空から抽出したのかい?  いや、いや、黄昏を絞ったのさ あぁ、なるほど。それはいい こくりと飲み干し目を閉じる カクテル言葉は夢の始まり そう囁く声を導に あの頃へ、意識が戻る 月光で編んだショールの柔さ 星屑のクッキーの仄甘さ 月のうさぎはダンスして 銀河の駅は華やかに その全てが過去のものだと 認めるにはいささか惜しく 閉じた瞳はそのままに 二杯目を煽り遡る あの頃へ、全てが煌めいていたあの頃へ
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