二.第二試合開始

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二.第二試合開始

「で?」 近所の広い公園へと引きずって来られた眼鏡男が、そんなことはお構いなしにバトルの勝利画面に頷きながら顔を上げると、 「まずはいいからこれを持て」 短髪が男がバットを差し出した。 「は?」 「いいから! 構えろ! 野球を感じろ! バットの重みを噛み締めろ! そして思うさま振り回せ! ボールをあの空の向こうへと打ち返せ!!」 無理矢理バットを持たせると短髪男は距離を取り、バッグの中から大量のボールを自分の足元に転がして一つを手に取ると大きく振りかぶった。 「いやいや、何言って……って危ねぇな! いきなり投げてくんじゃねぇよ! やるわけねぇだろ、こんなもん!」 「うるせぇ! 男の魂がねぇのか、お前は!! ボールが来たら無意識にも体が反応して打ち返してしまう! それが男ってもんだろうが!! タブなんか置いてちゃんと構えろ! 行くぞオラァッ!!」 「いてっ! ふざけんなよ、馬鹿じゃねぇの、お前! だいたい今どき、野球なんかよりこっちの方がメジャーだっての! 男は今やゲーマーが主流なんだよ! 世界基準で言ったって野球はマイナースポーツでeスポーツに取って代わってるだろうが! いてっ! やめろっての!!」 夕暮れでボールの視認が悪くなる中、眼鏡男が必死にバットを体の前に立ててかわそうとするが、すり抜けるようにボールが腹や太腿に当たる。 「本物の硬式ボールはもっと痛ぇんだからな! それで毎日試合してんだから、やっぱプロはすげぇよな! 野球ってすげぇな!!」 「いやいや何もすごくねぇよ! 痛ぇのわかってんなら最初からやらなきゃいいだろうが! なんでわざわざリスク侵してまでボール遊びなんかやってんだよ!」 「遊びじゃねぇっつってんだよ! 野球はなぁ! ただのスポーツじゃねぇんだよ! 世界のみんなはそこを忘れて流行りもんに流されちまってるだけなんだよ! 痛みを乗り越えてボール一つにチーム一丸となって立ち向かう! 身体と同時に魂も鍛えるんだよ!!」 「いてっ! 痛ぇっての!! っていうかこんなボールぶつけるのが野球か!? こんなもんスポーツどころかただの暴行じゃねぇのか!?」 「だから打ち返せば成立するっつってんだよ!! さっさと構えろ!! 打てばいいだけなんだよ!!」 「いや、お前いい加減にしろよ! 野球馬鹿ってボール持った瞬間、急に人格変わったりするから嫌いなんだよ!」 「それも全て一度でも打ち返してみればわかる! オラ!! まだまだ!!」 「ちょ、だからやらねぇっつってんだ……」 眼鏡男がバットを投げ捨てようとしたその時、 「あれぇ? 葛西(かさい)君と八重木(やえぎ)君? いっつも仲いいねぇ、今日は野球ぅ?」 緊迫感の無い若い女の甘い声が届き、 「高宮さん!? いやいや、別に野球なんかしてしてませんよ、やるわけないじゃないですか、そんなしょうもないこと。 ちょっとこいつの悪ふざけに付き合ってやってただけですよ」 「サオリちゃん!! そうなんだよ、全く野球なんて知らない軟弱な男の見本みたいな八重木に教えてやってたんだよ!」 振り返った男たちがそれぞれの主張を口にし、その食い違いに再び(にら)み合った。
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